平凡勇者と腐った魔王様

□ラリマー勇者と神子と腐魔王
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「お前さ、今までどうしてたんだよ」
「何をっすか?」
「その方向音痴」


授業が始まっていると言うのに勇者はまた廊下をグルグルさ迷い歩いていた。
なので風紀の俺が教室まで連れ行っている。


「あー……今までは母様が手を引いてくれたり、マイケルが案内してくれていたっス!」
「マイケル?」
「うちの可愛い白ヤギっス!」


ヤギ、カッコイイ名前をつけてもらってたんだな。と、言うかそのヤギはハイスペックだな。


「マイケルを連れてきたかったっすけど、学校は動物禁止なんすよね?」
「あぁ」
「うーん、早く友達を作って着いて行くようにしたいっすけど……遅れて来た所為か輪に入りそびれたいうか、みんなの目が冷ややかなんすよね……」


まぁ、その原因は神子なんだけどな。

勇者を寮まで送っただけならまだ生徒会長の親切で案内してあげただけで済むのだが、どうやら夕飯まで寮の食堂で一緒に食べたり、生徒会共に紹介したり、勇者の「これから学園生活頑張るっス!」に、会長(神子)は「では、部屋に戻ったら制服の着方から教えてやる。それから身だしなみやマナーも叩き込んでやる。隅から隅まで細かくな……覚悟しろよ」

と、勇者の尻を触りながら言ったらしい。
勇者は普通にポヤポヤ〜とさせてご指導よろしくお願いします!って笑顔で言ったらしいが周りが会長(神子)が勇者を気に入って懐に入れようとしていると察知したらしい。

その現場見たかった。凄く見たかった。なんで学校じゃなくて寮で、あ、いや、違う。
たぶん、その所為で平凡顔(俺から見ても芋っぽい)勇者の周りには人が寄らないし、勇者から寄っても関わりたくないから無視をする。

それに、会長の親衛隊という厄介な組織は勇者を気に食わない。近々勇者に牽制をする計画が有るとか無いとか。


「教室に着いたっス!助かったっス!」
「……放課後くるから、教室出るな。勝手に動くなよ」
「一緒に帰ってくれるんすか?!嬉しいっス!俺、待ってるっすよ!」


あの勇者、きっと道を覚える気が無いと思う。
だから放課後、俺はその対策に勇者にヤギのマイケル代理になりそうな魔獣を召喚させようと思う。
それと、牽制された時に守って貰えるように守護魔獣も。

こんな勝手なことをしたら神子が怒るかもしれないが、何時もの事なので大丈夫だと思いたい。


で、放課後に勇者を迎に行き、魔獣召喚部屋に連れていき召喚させると……


「マイケルー!ジョセフー!会いたかったっすよー!」


なんと、勇者は家に居るはずのヤギを召喚した。
と、言うかヤギってバフォメットだったのか?!
勇者が悪魔を行使するって、神子が知ったらどうなることか……想像したくない。


「おい、黒ヤギのジョセフってなんだ?」
「マイケルの番なんっすよ!それに、時々俺を守ってくるっス!」


守護魔獣も召喚完了。
と、言うか契約をしていたのか。
子供の頃からずっとヤギの姿だったから悪魔だと気づかなったらしい。
と、いうか悪魔の存在自体知らなかったらしい。

初めて傍にいたヤギ達の正体を知った様だ。


「悪魔なら傍に置いていても良いんすよね?」
「あぁ。必要な時だけ呼べば良い。それ以外は魔界に帰しておけ、邪魔になるからな」
「小さいサイズなら良いんすか?」
「手のひらサイズで胸ポケットに入れていれば邪魔にならないな。だが、鳴いたら迷惑になるから帰しておけ」
「解ったっス……またね、マイケル、ジョセフ」


ショボンと落ち込みながらヤギを帰した勇者。

その後は勇者を人通りが少ない所を選んで校門まで帰そうとしていたが先祖代々からストーカーキングの神子に見つかり勇者を神子に引き渡した。
その際、何時も通り神子から威嚇され、苦笑いしながら2人の背中を見送った。

.
.
.

翌日の朝。
俺が起きて風紀の見回り表を作ろうと風紀部屋に入った。


「よぉ魔王」
「……おはよう会長」


まさか朝一で神子の姿を見ることになるとは思わなかった。
しかも優雅に風紀委員長席で紅茶飲んでるし。


「朝から何だ?此処に勇者は居ないぞ?」
「俺はお前に用が有って来た。コレを受け取れ」


キラっと小さなモノが投げられ片手で受け取ると手の中に収まるサイズで硬い。
見てみればそれは石が嵌め込まれた指輪だった。


「え、お前、俺の事が好きだったのか?」
「呪いの指輪でな、それを持っていたら1時間後に髪や毛が全部抜け落ちる」
「こんな物寄越すな!返す!!」
「冗談だ」
「……本当に冗談か?」


神子は俺様だが真面目っ子だから冗談は解りづらい。


「その指輪を着けて行きたい場所を言ってみろ」
「着けて大丈夫なのか?二度と外れないとか無いよな?」
「ちゃんと外れるから問題ない」


取り敢えず神子の言葉を信じて指輪を着けて行きたい場所……食堂と言ってみた。

すると指輪の石から細い光が一瞬で伸びて風紀室の扉を貫通している。
えーと、これは、まさか、


「その光を追うと目的地に辿り着ける」
「すいませんでしたっ!!!」


俺は即座に頭を下げた。
神子は用意していたんだ、迷子の達人勇者の為にこの指輪を。
この指輪を渡す前に俺が勇者にヤギを召喚させてしまった。

真顔の神子を見ると、凄く怒っているとわかる。
もう俺に余計なことをするな、この指輪は勇者にあげたかったが不要となったから処分しておけクソ魔王って言っているのがよーく伝わる。

なんていう事を俺はしてしまったんだ。
勇者が神子から指輪を貰い、神子を意識しだして恋の予感フラグを折ってしまった!

いや、でも、あの勇者なら「会長さんから便利な指輪を貰ったっス!これでもう迷子にならないっス!」と言って意識せずに普通に喜ぶだけかもしれない。


「用はそれだけだ」
「お、おう……」


神子は出ていった。
……この指輪、どうしよう。
なんか捨てるの勿体無い気がするし、俺が持つべきではない。

勇者にあげるとか?神子に殺されるかもしれないが、勇者の為に用意した指輪なら勇者が持つべきだ。

いや、俺からではなくて、神子から渡すべきだ。
決めればこの指輪を神子に返そうと俺も風紀の部屋を出て神子を追った。


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