平凡勇者と腐った魔王様
□それからそれから3
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隠れているとドラゴンが俺を探す足音に瓦礫や壁を壊す音。それと街からは悲鳴や沢山の声が聞こえる。城がドラゴンに襲われ崩壊しているんだ、避難しているんだろう。ドラゴンに適わないと判断した兵士は避難誘導に回っているのか、作戦を立てているのか、逃げ出したのか。ドラゴンに応戦しにくる兵士は今のところ見てない。
ユアン先輩早く来てくれ……
「みーつけた」
「っ!」
「ドラゴンに気を取られて私を忘れてたでしょ」
「い゛っ!」
逃げようとしたが思いっきり腹を踏まれ失敗した。
この女っ、ヒールの靴を履いてるから攻撃力がプラスされてるっ!ヒールまで武器かよ!
「今度こそ殺してあげる」
本当にこの女は速い!
ナイフが見えた頃にはもう首が斬れて、血が吹き出している。息もまた出来ない。深く、切られた……今度こそ、死ぬ?
「パックリ切れれば流石にっ!きゃっ!!」
意識が途切れそうになった時、目の前にいた女は消えた。
誰かが女を殴ったのか蹴り飛ばしたのか、誰かが俺を助けようとした?
「チャイム!チャイム!くそっ!血が、止まれっ!止まれ!」
チャイムじゃない、チャムルだ。って言いたくても斬られた首では言えない。
けれど、傷口を着けて血を止めようと押さえてくれてるおかげか、首が熱い。物凄く熱い。きっと、治っていってるから熱いんだ。
「勇者はなかなか死なないんだろ!傷が早く治るんだろ!死ぬなよ!死ぬなよチャイム!」
だから、チャイムじゃないってば……
「ヒュ……ヒュ……」
「チャイムっ!チャイム!!」
大丈夫だから、そのまましてくれたら治るから。
泣くなよイバーユ、俺はまだ生きてるから。
「……邪魔するな」
「!」
「勇者と神子を消さないと帰れないのよ」
飛ばされた女は瓦礫から出てきた。
イバーユは息を呑み、俺を強く抱きしめる。
「フィーネ、ファイヤーボム!……フィーネ?!」
俺とイバーユは死を覚悟した。
イバーユなんか俺の上に被さって庇おうとしてくれた。
イバーユ、俺なんかを……
でも、黒い炎は向かってこなかった。
俺とイバーユ、敵の女が見たのは、
「何よアレ!!」
レンガでできた巨大なドームだった。
誰があんな物を作ったんだ、ユアン先輩の妖精か?
「まさか、あの中にフィーネが?!」
「まさかのそのお通りだ!」
今度は俺とイバーユの前に上から飛んできて着地をしてたのはイゴールだった。
「今頃自分の炎で丸焼けになってるだろうな」
「チッ!お前、呪が解けたか」
「コラコラ、女の子が舌打ちをするんじゃない」
「殺す!」
「殺させない!」
女は早かった。イゴールに向かって走り出した……の、だが、イバーユも早かった。
俺をそっと壁にもたれる様に座らせると身体強化の魔法で足が早くなり腕の力を強化し、女の腹に一発入れた。
モロに食らったのか、女は腹を押さえ動きが止まった。
「カハッ…」
「イゴール!」
「あいよ!」
その隙を逃さずにイゴールは女を囲う様に土のドームを作りあげた。
これで、終わるんだな……
「ふぁぁ……ごめん、魔力使い過ぎた」
「え?!」
イゴールがパタリと倒れたのを見て、俺も意識を飛ばした。