漆黒の魔導師
□高慢の魔導師
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月刊魔導師とは、今話題の魔導師をピックアップした、女性に人気の雑誌である。
話題の魔導師、とはいっても基本、容姿、評判が良いものに限られており、それがエヴァの楽しみの理由でもある。
今日もウキウキしながら、件の雑誌を読み始める。
書斎から出て、一息しようと降りてきたルシエルは、そんな助手の姿にため息をついた。
「またそれか。お前も良く飽きないな」
「飽きませんよ〜!ルシェさんも読んでみれば分かりますって!」
「一生読まん」
またまた〜、とかもはや恒例になりつつある上司いじりをしながら、ページを捲る。
大きく見出しされた魔導師の名に、エヴァはとび跳ねた。
「キャー!やった!今週はラーファ載ってる!!しかも増ページですって!!
楽しみにしてた甲斐がありましたよ!もう!」
とかって、雑誌を胸に抱きしめるエヴァがルシエルは不可解で仕方がなかった。
ラーファ・クレシェント。
純魔導師であり、その美貌とスター性から、国境を越えてファンがいることも珍しくない。
現にエヴァも、ラーファの熱狂的なファンである。
彼が不定期的に掲載されるため、エヴァは月刊魔導師の愛読者になったようなものだ。
過去数年間に購入したものも、全て大切に保管しているらしく、しかも、どの刊に誰が掲載されていたか覚えていると断言された時は、ルシエルも少々引いた。
「あ!見て下さいよ!ルシェさん!!
サイアンさん載ってますよ!!”人嫌いな彼が垣間見せる、意外な一面…”ですって!」
見せられたページには、鷲の使い魔を腕に乗せている彼の写真があった。
くちばしの下をくすぐって、気持ちよさそうにしている様を見て、微笑んでいる。
おそらく、これらの写真はサイアンに了解を得たものではないだろう。
ルシエルは苦笑でかえす。
「本人には見せられないな。
自分の写真が雑誌に載ってると知れれば、何年自室に引きこもるか分かったものじゃない」
「そうですか?
ギルバートさんは自分が載った時、すごい喜んでましたよ。
ルーカスさんだって。
若そうに見えますが、やっぱりサイアンさんって、評判通り気難しい方なんでしょうね」
…いや。断じてそうではない。
公衆に自分のプライベートの写真など晒されようものなら、恥ずかしさのあまり二度と表に姿を現さないような気さえする。
エヴァは知らないが、サイアンとはそういう人間なのだ。
人として彼を嫌っているわけではないが、あそこまで病的に人見知りであると、なんとなく避けてしまう。
「それにしても、ラーファって本当にイケメンですよー。
ルシェさんも、言葉遣いとか、服装とか少し見習ってみてはいかがですか?
そしたら、風当たり良くなるかもしれませんよ」
「何故、私が却下することを分かっていながら、そのような事を言う」
「面白いので」
苛立ちを感じてはいたが、今となっては、彼女からのこの扱いに慣れてしまっていた。
ため息をついて、頭を抱える。
そのとき、白令の鳴く声が、玄関広間の方から聞こえた。
「おそらく、審判員の連中からの招集だろう。行ってくる」
「お気をつけて」
気の抜けた送り出しを後に、魔殿を出た。