漆黒の魔導師
□高慢の魔導師
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「私はラーファ様のボディーガードのランと言います。さっきのはダン。
ダンは少々知能に問題がありまして、思った事を正直に言ってしまうのです。
どうか、お許しください。」
カイルはなんとなく許しがたくて、空返事をしていた。
間を取り持つようにエヴァが話をつなぐ。
「そんな、こんなことしょっちゅうなんで、ルシェさんも気にしてませんよ!大丈夫ですって!
それにしても、私、ラーファさんの大ファンなんですよ!呼んでいただいて感激です!!
…ところで、どうしてラーファさんのような高名な純師の方が、ヴァルハラなんかに護衛を?
貴方方だっているでしょうに…」
ランは軽く笑いながら
「ええ。ラーファ様のボディーガードは、私どもを含めて54名います」
「ごじゅ…っ!それ、俺達必要なのか本当に!」
必要なのは、ルシエル単独なのだろうが、ランは敢えてそこに触れなかった。
「私どもも、同じことをラーファ様に言いました。
我々がいれば、ヴァルハラの助けなど不要であると。
ですが、ラーファ様は一向としてルシエルを呼びだすことにこだわっておりました」
「…じゃあそれってさ、やっぱ、護衛ってのは名目で、さっき言ってた超くだらない勝負するために、ルシェのこと呼んだんじゃ……?」
そもそも、何から護衛するかも聞いていなかったことに気付くカイル。
サルガタナス関連だと思ったが、とんだ思い違いだったようだ。
ランは、ため息をついた。
「近頃、ラーファ様は、自分の人気のために躍起になられているところがありました。
もしかしたら、ルシエルと戦い、強さを見せることで、より人々からの支持を集めたいのかもしれません。
最近は、若くて優秀な魔導師が、たくさんいますから、それに負けたくないのでしょう」
しかし、それにしても迷惑な奴だ、とカイルは思った。
ルシエルは大魔導師の仕事とも重なって、闇師の仕事で多忙なのである。
その中で、そんな、言ってしまえばくだらない用事で招集されてしまうなど、問題外の事例である。
そうこうしている内に、目的地にたどり着いた。
車から降り、ルシエル達と合流する。
案内された場所は、どこかの劇場のように広い入口を構えた、ドーム状の建物の正面。
ガラスの自動扉をくぐって、ダンがセキュリティを解くと、その向こうにある両扉が開いた。
まるで豪邸のような内装にカイルは息をのむ。
エヴァの方をみると、両手で頬を覆っていた。
「どしたのエヴァさん」
「だって…、ラーファの家にいるなんて…!私には…!ああもう…っ!」
「ようこそ。どうだい?僕の家は。」
声をした方をみて、エヴァが悲鳴を上げた。
ラーファだ。
スポットライトはないが、それでもなんだか全身が輝いて見えるのは、彼のもつスター性がゆえだろうか。
煌めくエメラルドの瞳と、波打つ緋色の長い髪、端正な顔立ち、自信に満ちた表情、なにより全身から溢れるオーラが常人と異なる。
世の女性が虜になるのも頷けた。
「幸せです!最高ですはい!!!」
思いがけないところからの返答でも、ラーファは落ち着いた返答をした。
「そう、それは良かった。それじゃ―」
「あのっ!私っ!ラーファさん、いや、ラーファ様の大ファンなんですけれども!サインいただけますでしょうか!!!」
話の途中で我慢ならず言い放ったエヴァに、ラーファは嫌な顔一つしなかった。
「おや。これは意外だ。ヴァルハラにも僕のファンがいるなんて、嬉しい限りだね。
いいよ。サインくらい、いくらでも書いてあげる」
「あの!握手もいいですか!!?」
「勿論だよ。今日は来てくれてありがとう」
「とんでもございません!
こちらこそ、この世に生まれてきてくださってありがとうございます!!!!」
そんなわけ分かんないやり取りを見せられ、呆然とする男子三名。
一連のやり取りを終えたところで、ランが口火を切った。
「ラーファ様。そろそろ本題を」
「そうだね。客人をいつまでも立たせているわけにはいかない。
皆さん、奥へどうぞ。
ラン、何か飲み物を。」
この対応に、カイルは面食らってしまう。
さっきまでの態度で、嫌な奴なんだろうと決めつけてしまっていたが、なかなか良識があっていい奴かもしれない。
通された間には、これまた高級なソファーがあって、座ると疲れがどっと解けだしてしまいそうだった。
「なんだこれ、すげー座り心地いい…。ずっと座ってたい。」
カイルがそんな風に言う傍ら、エヴァはと言うと
「ラーファ様がいつも座ってるソファー…。ラーファ様がいつも…」
とかってすごく怖かった。
そんな奴らの様子を見て、ルシエルはやはりこいつらは置いてくるべきだったかと思う。
対するラーファは笑っていて
「ふふ。面白い子たちだね。
君の周りにこんな個性的な人たちがいるなんて、驚きだよ」
やだ、褒められた、とか勘違いしたエヴァはまた赤面して顔を伏せている。
実際褒められてはいないと思うが…。
「ところで、ルシエル。君は本当に顔をいつでも隠しているんだね。
今ここで、それを取って貰う事って出来ないかな」
ルシエルの答えは決まっていた。
「そちらがいくら高名な魔導師だとしても、私はヴァルハラの大魔導師だ。
我儘に付き合ってやっているだけでも、感謝してもらわねばならんな」
「ちょ…、そんな風に言わなくても…」
確かに、ルシエルは大魔導師であるため、ラーファより権力は高いのだろうが、随分横柄な言い方だと思った。
だが、ラーファは特に気を害したふうではなかった。
「そうか…、それは残念だ。
でもルシエル、顔も明かさない相手を、人が信用できると思うかい?」