短編集

□拘束された激情
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その帰り道で事は起こった。


「君、南くんだね」


道を塞ぐように現れて言ったのは、見るからにオタクそうなキモデブ。


「何だお前。そこどけよ」


デブは脂ぎった顔をニッと歪ませて言った。

不揃いな歯が、更にキモさをアップさせてる。


「僕は杉田。
君、あの松林グループを皆やっつけたんだってね。
町中噂になってるよ」


「だから何だってんだ」


デブ…杉田は、デュフフとキショイ笑いを浮かべて言った。


「実は、僕は自分で言っちゃえるほど強い拳法家なんだよ。
そこで、松林グループをやっつけたって言う君と、力比べがしたくてね」


拳法家?力比べ?

おい、お前に勝目あんのか?

お前その肉のつき方からして、どうしたって拳法家にゃとても見えねぇ

「おいデブ。いい加減―」

「100万円だ」

杉田は、自信満々に言ってのける。

「僕に勝ったら君に100万円あげるよ。
でももし僕が勝ったら、君には1週間、僕に“奉仕”をしてもらう」


「はぁ?」


なんだよその自信。

負けたら“奉仕”?

介護でもしろってか?


「“奉仕”っていうのはね…、デュフフ、君の体で僕のココを満たして貰うことさ」


言って杉田は自分の股間を掴む。

正気かこいつ。

つーか、マジでキメェな。

しかも自信満々なところが更にムカつく。


「どうしたの?
あぁ、怖じ気づいたんだね。
それとも掛金が足りないのかな」


ブチッと頭の中で血管が切れた。


「っせぇ!
ビビってもいねぇし、金でもねーんだよ!!」


バキッと脂ぎった横っ面を殴りとばす。

案の定だ。

きったね!

ツバついた!


「や、やる気があるんじゃないか…」


杉田は立ち上がりながらぼやく。

俺はとにかく目の前のキモデブがムカついて、怒鳴り付けるように言い放った。


「万が一にでもてめぇが勝てたら、1週間でも1ヶ月でも言うこと聞いてやるよ!」


虚勢に決まってる。

こんな奴、俺にはおろか、松林にだって勝てるわけねぇ。


二度とムカつく口が聞けないようにしてやる。

今度は鳩尾に一発いれる。


だが今度は杉田は倒れなかった。

杉田は気味悪い笑みで、腹にめり込んでいる俺の腕をつかむと。

「それホント?」


言うなり俺の腕を締め付けてきた。

「…ってぇ!」

腕がミシミシいってる。

すげえ力だ。

「…っ離せ」


俺は空いた手で、杉田の横っ面を殴ろうとしたが、

「デュフフ」

杉田はそれを防いで、

「コポォ!!」

俺の胸を掌で打って、後ろへぶっ飛ばした。


「あぐっ…」

俺は仰向けに倒れ込む。

一瞬何が起こったか分からなかった。

「デュフフ、僕の勝ちだぁー!」

直後覆い被さる影。


ヤバいと思ったときには遅かった。

杉田の凄まじい体重がのし掛かる。

肋が、肺が、心臓が、押し潰されそうになって悲鳴を上げた。

「あ…、がはっ…、て、めぇ、降り、ろ」


「ムフフフ。
じゃあ負けを認めなきゃねぇ」

「ふ、ざけん、な…」


身体中がミシミシいってる。

呼吸さえまともにできねぇ。

だが、負けましたなんざ口が避けたって言えない。


バキッつって、肋が折れた。


「ぐああああっ」


折れたヤツが肉に刺さって痛ぇ!

口ん中から血の味がした。


「…ゲホッ、はぁっ、はっ、あっ、ああ」

ヤバい。

このままじゃマジで押し潰される。

コイツは一向にどく気配がない。

俺の力だけじゃ、もちろんどかすことなんか出来ない。


…くそっ


「ほらほら、言わないとどいてあげないよぉーっ。
それどころか、ここで誰かに見られたら、それこそ町中に、君が僕に負けたってことが噂になるよぉー。
僕は君が抱ければそれで良いからね。
ここでギブアップすれば、誰にも口外しないであげるよぉーっ」


意識が遠退く。

背に腹は変えられなかった。


「ま…、負け、まし、た…」


杉田は満足そうに笑って、俺を解放する。

そして、俺を抱え上げると、そばに停めてあった車に放り込んだ。


俺は、意識が遠退いていくのを抗うことは出来なかった。





 
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