短編集
□テンタクルズ
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それは何気ない日常の非日常から始まった。
「…ってぇ…、やっちまったな…」
人気のない山道のなか、そう隼人は呟く。
道路の上には濃く刻まれた車軸の痕。
倒れた隼人の数メートル先には、酷い有り様のバイクが転がっていた。
趣味のツーリングでの出来事だった。
ほんの少しハンドル操作を間違えただけでこれだ。
隼人は痛む体を励ましながら立ち上がると、よろめきながら愛車のそばまで行った。
これはもうダメだろう…。
ミラーやブレーキは折れて吹っ飛んでいるし、メーターやライトの破片がそこら辺に散らばっている。
フロントフォークはひしゃげ、正に絶望的だった。
もっと絶望的なのは、ここが電波の届かない山道だということ。
もちろん、夜中なので人通りも少ない。
「畜生…」
隼人はなんとかバイクを持ち上げると、道の外へやって、片足を引きずりながら山を降りる道を歩き出した。