短編集

□秘密
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いつでもどこにでも秘密というものはあるものだ。

かくゆうここも秘密の場所。
川の下流なのだけれども、人目はないに等しい。

ここではよく川下りにくるウナギがとれる。

知る人ぞ知る、穴場なのだ。

「何だか人いないな。まぁ、その方が静かでいいや」

言って久(ヒサ)は釣り道具を、足元に置いて釣りを始めようとした。

こうして気まぐれに釣りに来ることは、久の趣味であった。

しかし、手を滑らせ、釣竿を流されてしまう。

しまったと思った時には遅く、竿は久の手をすり抜けて行ってしまった。

その時、澄んだ水の底に、長い胴体の獲物を何匹も見る。

驚いていると

「ここではこの時期、よくウナギが取れるんだよ」

少し離れた場所にいた中年の男がそう言った。

だとしたら、これを逃すわけには行かない。

久は意を決して、服を脱ぎ、流石に全裸にはなれないので、下着になると、川へ向かう。

「すもぐりで取る気かい?」

久は照れ笑いで

「まぁ。無理ですかね?」

無理だと言われてもやるつもりだったが、男は意外に

「いやぁ。面白そうだから、やってみるといいよ」

言って気の良さげな笑みを浮かべた。

久はなるべく音を立てないように川に入る。

が、思っていたより流れが早い上に、底が深かった。

「うわぁ…っ!がっ…」

「大丈夫かっ!」

溺れかけたところを、男に助けてもらう。

引き上げた時に、尻まで下がってしまった下着を引き上げることは久の頭になかった。

「…はぁっ…げほっ、あ、ありがとう、ございます…」

水を吐き出しながら、礼を言う。

下着のずり下がった久の下肢を見て、男の目が怪しく光った。



 
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