短篇小説
□傘の使い方
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世の中には止まない雨がある。いつ止むかも解らないそんな雨が…。
『雨はいつあがる?』
そんなことを訊いてきた友人がいた。解らない…。
だってあの人は二度と戻らない場所に居るのだから…。
とても早い、早すぎる死と共に、その日から止まない雨が降りだした…。
その中で、あの人をよく知る友人が言った。
『それでも人には傘がある。オレは射していくよ』
あの人を最後に見た日は雨が降っていた…。
天空からの涙が冷たい。友人の言葉が……言いたいことがその時痛いほど判かった。立ち止まってはいけないとも思った。
気が付けばまたいつも通りの日々を過ごしている自分に驚く…。
でも、忘れた訳じゃない。もうすぐあなたが居なくなった時期になります…。
とても大きなあなたの背中を思い描き、雨の中傘を射しながら向かいたいと思います。
心の中の止まない雨…。
『それでも人には傘がある。オレは射していくよ』
あのとき聞いた友人の言葉…。
「…はぁ」
今、僕はあなたの居たお店の前に居ます。もう二度と開くことのない、美味しいコーヒーが飲めたあなたのカフェに…。
真っ白な色をしたお店の中には同じくらい白くて丸いテーブルと七種類の色の付いたプラスチックの椅子が二つずつ置かれ、いくつもの傷の付いた木製のカウンターには必ずあなたが居た。
そこでの友人達との会話が頭をよぎる。でも、それはまるで宝石箱のように眺めることも取り出すこともできるけどその中には入ることはできない。
「………できた」
シャーペンをクルリと回した。
方手に持つ大学ノートには黒い線であの時の様子が描かれている。思い出へと変わった笑い、過ごした時が…。
僕は隣で寝いびきを発てている友人を擦る。
「おい、達也起きろ、終わったぞ」
友人は眠たそうに目を擦りながらその中を覗いてきたが隠さず見せてやった。
茶髪に染めたやや髪の長い友人の目が細くなり優しい光が混ざった様に見えた。
「…ちゃっかりとオレも描きやがったな」
そう言いながら拳を僕の胸へと当ててよこした。
「こっちの勝手だろ」
そう言いながらもその友人に、あくまで胸の内でお礼を言った。
カフェのすぐ隣にある大きな木の下で二人で座っている。上を見上げると若草色の葉が陽光で透けて見える。