WJ系短編詰込式

□その言葉の先は
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「名前は、無いんです」


へらりと笑う、この男。


「だからアナタの名前も聞きません。でも、」





その言葉の先は






絡まれた、不良に。
いや、もしかしたら暴走族とか暴力団とか。

とにかく酷くやばい状況に陥っているのだ。
確かにぶつかったのは私の不注意だけども、謝ったのに!
すごく真摯に謝ったじゃん!
何が謝って済むなら警察はいらないよってあんたたちの方がいらないじゃないあ、ごめんなさい嘘ですだから許して。
考えていることが分かりでもしたのか、ヤンキー兄ちゃんたちは恐ろしく怖い顔で私を睨む。
もう一度頭を下げて、ごめんなさいと言った。


「だ か らぁ、謝って済むなら警察いらねぇって言ってんだろぉ?」


その無意味な巻き舌やめませんかね。
そんなことを考えながら、とりあえずどうしよう。
逃げる、という手もあるかもしれないが、私はそんなに足が早くない。
逃げて捕まったら余計悲惨だ。

しかも他の通行人は我関せず、という顔。
うん、冷たいけど賢い生き方だとは思う。
でもだれか警察に通報してくれないかな。


「聞いてんのか……」

「あ、こんなところで引っ掛かっていたんですか」


再び言葉で脅されそうになった瞬間、引かれる腕。
驚いて後ろを見れば、凄く怪しい人がいた。
え、何この人。

よれた大きめのシャツに、下がった古いジーンズ。
髪は伸ばしてあり、手入れもあまりしていないのかボサボサ。
慢性の睡眠不足を主張するような目の下の隈。

誰だこの人。


「時間過ぎてもこなかったんで、何があったかと思いましたよ」


呆気に取られる私たち(不良も)に構わず、ぐいぐい引かれる腕。
もしかしてこの人は私を助けてくれようとしているのだろうか。

それにしては、随分頼りなさそうな救世主。
これじゃあ逆に一緒に脅されてしまいそうだ。
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