詰め込み式
□約束しない待ち合わせ
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にゃんこ先生こと斑はぐったりしていた。
ちょうちょを追いかけていたのは良いが、少し無茶をしたのだ。
塀から塀へと飛び移り、小さな川を越え(斑は小さな川だと言い張るが、実際はただの溝である)。
気が付けば随分遠くまで来ていた。
斑は道に迷うことなどなかったが、今はそれしか分からなかった。
日光がじりじりと、彼の思考力を削ぎながら背中を焼くからである。
約束しない待ち合わせ
斑が日陰でぐったりしていると、背後で草を掻き分けるような音がした。
彼は驚いたが、そのリアクションを取れるだけの元気が無いらしく、べったりと地に張り付いたままである。
何とも間の抜けた姿だ。
もしその掻き分けてきたのが犬だったらどうするつもりなのだろう。
「あれ、猫だ」
いや、斑は近づいてくるのが人間だと分かっていたのかもしれない。
そして姿を現したのは、確かに人間の女の子だった。
夏目と同じくらいか、少し歳下か。
斑はそれを一瞥し、害がなさそうだと分かると先ほどと同様にぐったりとだれた。
「猫さーん暑いの?」
女の子は斑を見て楽しそうに話しかける。
近づいても逃げないのが分かると、隣へぺたりと座った。
ぐったりしている斑を見て、女の子は思いついたように自分の鞄をがさがさと何かを探し始める。
出てきたのはプラスチックの下敷きだ。
そしてそれでぱたぱた扇ぎ出す。
風が起こる。
斑はそれにほんの少しだけ反応し、体を揺らした。
「あ、気持ちいい?」
女の子は嬉しかったのか、くすりと笑って扇ぎ続ける。
斑はもう一度女の子を見て瞳を伏せた。
子供、夏目と同じくらいの子供。
少し前(といっても妖怪の時間の尺度だが)ならば、このくらいの人間など食料か何かとしか思わなかったかもしれない。
だが、こうやって人と生活をしていれば、そんな考えは自ずと薄れていくもので。
斑は甘くなったと思いながらも、仕方ないかと考え直す。