夢散歩
□20:軽やかに避ける
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彼女が口にしたことを精一杯、力強く否定する。
本当に恋人だと思って言われたのかはその表情から伺うことは出来ないが、もし少しでも疑われているとすれば問題だ。
……問題。
確かに彼女とは出会ってからそう経ってはいない。
しかしこれから長く付き合うことになるのだ。
多分、きっと。
そうなると、後々面倒を呼びそうな誤解は解いておいた方がいい。
良いに決まっている。
軽やかに避ける
思わず口が、「え」のまま固まってしまった。
まさか恋の奴隷なんて言葉が出て来るなんて予想外である。
何度か瞬きをして、視線を銀時の方へやった。
どうやってリアクションを取って良いか分からなかったためだ。
すると彼はぎゅっと拳を作り、震わせている。
その震えの原因がどの感情に当てはまるかは、表情を見れば一発だ。
怖い、そして物凄く嫌そうである。
目は口程にものを言う。
正に「ちょー迷惑」という言葉が聞こえてくるようだ。
しかし女の人はそれを全く気にしていないようで、一人で銀時との出会いを語っている。
ある意味凄い人だ。
そして同時に、少し淋しい人でもある。
こんなにも熱い想いを銀時へと注いでいるというのに、当の本人は全くその気が無いのだから。
「もーホント、いい加減にしてくんない?いつ誰が、どうやって婚姻届なんて出せんだよ!」
女の人の話は、いつの間にか婚姻届のまで進んでいた。
どのような困難があったか懐かしむように語っているが、銀時を信用するならこれは嘘ということになる。
凄まじい想像力だ。
「そして銀さんとは、明日結婚式をやるのよ!」
「もう嫌なんですけどォ!何これ、この人、こっちの話全然聞かねぇよ!」
「で、そこのあなた」
銀時との出会いから今日までを一人で語っていた女の人が、突然私の方を見た。
眼鏡のレンズの向こうから、突き刺さるような視線を送られる。
それにドキドキしつつも、目は逸らさない。