WJ系短編詰込式

□その言葉の先は
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「おい待てよ、何勝手に連れて行こうとしてんだよ」


私の予測通り、不良は腕を引こうとする青年にも文句を付けた。
腕を握る手がぴくりと神経質そうに動く。


「電車男でも目指したのかよ、オニイサン」

「そううまく行くわけねーだろ!」


ぎゃはぎゃはと、大きく不良たち(本当に不良なんだろうか)は笑った。
電車男の件はなかなかうまいと思った。

私なんか助けずに、もっと美人に手を差し伸べればいいの、に。


「五月蠅いですね」


ばきっと嫌な音がして、目の前の不良の一人が吹っ飛んだ。


大男というわけでもなかったが、小柄でもない。
しかしいかにも軽そうに男は吹っ飛んでいった。

しかもどうやら吹っ飛ばしたのは腕を掴むその人のようで、その証拠に、足が上がっていた。
目が、点になる。


「少し黙ったらどうですか?」


言うこともなかなか辛辣だ。
もう吹っ飛んだ男はとっくに口を開けまい。


「……飛んでった」


私が飛んで行った男を指差しぽつりとつぶやくと、救世主は再び無表情で腕を引き始める。


「飛んで行きましたね、早く行きましょう。私は目立つことは好きじゃないんですよ」


確かに集まり始めた人々の視線。
思わず腕を引くその手をぎゅっと握る。
一瞬嫌がられるかと思ったが、救世主はがっちり握り返した。


「あの、ありがとうございました」

「……偶然ですよ、偶然通り掛かって、何だか放っておけなかったんで」


歩きながらするお礼。
ふと下に視線をやれば、そこにはむき出しの踝。
ああ、靴下を履いて無いんだなと思った。
それがおかしくて(どうしてだかとても)、失礼だとはわかっても、笑ってしまった。


「何ですか?怖くておかしくなりましたか?」


この人もなかなか失礼だ。
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