BLEACH

□X'masの夜に…
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「日番谷隊長はサンタクロースから何を貰いたいんですか?」


それは市丸が藍染、東仙と共に尸魂界から姿を消して初めてのX'masの前日、属に「イヴ」と呼ばれる12月24日。
日番谷が隊を空けている松本の代わりに吉良へ回す書類を手に三番隊の執務室を訪れた時、去り際に背中に向け掛けられた台詞だった。

「サンタクロース?馬鹿野郎、俺はそんな空想の産物信じてる程ガキじゃねぇ」

護廷十三隊副隊長陣の中でも飛び抜けて頭脳派な彼から零れた言葉とは到底思えぬ台詞に日番谷はあからさまに肩を竦め溜息を吐き、手を掛けた戸を引いて執務室を退室しようと一歩足を踏み出した。しかし聡明な副官殿は少年隊長の取って付けた様な態度に少しも動じた様子は見せず、引き出しを探り何かを取り出しながら更に言葉を繋げる。

「ですが今夜お願いしたら、もしかしたら隊長の欲しい物が貰えるかもしれませんよ?」
「吉良、お前なぁ…」

懲りずに尚も空想の人物の話を持ち上げる吉良に、日番谷は呆れた様子で眉間深く皺を刻み踵を返して振り返る。すると目の前には金髪の副隊長の掌に大事そうに乗せられた、緑色の包装紙に赤いリボンが綺麗に巻かれた箱が日番谷へと差し出されていた。目前に迫った其れに目を丸くし、二の句を継げられなくなる日番谷。

「…吉良…」
「僕から日番谷隊長へのクリスマスプレゼントです。受け取って頂けますか?」

にっこりとした優しげな笑みを浮かべ、膝を曲げ腰を僅かに屈めて日番谷に目線の高さを近づける吉良。日番谷は「クリスマスプレゼント」と称されたそれを彼の最後の言葉に促され手を伸ばして受け取ろうとするが、ふと自分が彼に贈るものをなにも持っていないことに気付くと手を下ろし戸惑った風に視線を横に背けた。

「けど俺、吉良へのプレゼント用意出来てねぇ…」
「あぁ。それなら…」
「…?…っ…」

腰を屈めている吉良との距離が更に縮まり近くなる。
直ぐ傍に彼の匂いを感じ日番谷が反射的に吉良の方を向くと、程なくして翡翠の瞳を覆う左の瞼へと温かな唇が触れた。それはほんの一瞬、しかし日番谷にはそれが幾秒にも渡る長い口付けに感じられた。瞼に触れ、やがて静かに離される赤みを帯びた唇。日番谷は離れていく吉良の顔を目で追い、暫し茫然とその場に立ち竦んだ。

「確かに戴きました、日番谷隊長からのクリスマスプレゼント」
「…っ吉良…」
「受け取って…頂けますよね?」

日番谷の小さな両手を取り、その掌の上に包装されたプレゼントを乗せてやる。
そうして日番谷は仕事に戻りますという彼に見送られ三番隊を後にすると、先程のキスの余韻を引き摺りつつも小さな歩幅でゆっくりと自隊の隊舍へと帰っていった。













吉良と別れてから数時間後。
日番谷は夕餉と入浴を済ませ、寝間着に着替え寝支度を整えると敷いた布団の上に行儀良く正座をして座り込んだ。目の前には昼間吉良から貰ったプレゼントが一つ。しかし部下達からの信頼も厚く隊長格の間でも人気者の彼の部屋の片隅には、今日一日で差し入れられた「クリスマスプレゼント」の山がどんと高く積み上げられていた。包装された色とりどりの箱や袋に入った贈り物の数々。明日のクリスマス当日には更にあの山がもう一つ二つ程室内に出来ることだろう。

日番谷は正座をしたままリボンに手を掛け丁寧に結び目を解いていくと、がさがさと包装紙を開き内箱を開いて贈られた品物を内より取り出した。中に入っていたのは日番谷の顔程の大きさはあるだろう赤い、足首に当たる部分に真っ白なファーがついたクリスマスを象徴するデザインの靴下が片方だけ。箱をひっくり返しても逆さに振っても、結局中から出てきたのは大きな靴下が片方だけだった。
そのなんとも派手な柄の靴下を前に途方に暮れる日番谷。

「…吉良、あいつ一体どういう…」

これをプレゼントと称して贈りつけた男の意図が分からず靴下を弄っていると、靴下の中から一枚の緑色のカードがひらりと畳の上へ落ちてきた。日番谷は直ぐ様それに気付くと靴下を膝の上に置き、右手でカードを拾い上げそこに書かれた綺麗な文面に視線を走らせる。
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