携帯獣夢

□まるでローテーションバトル
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『やあセレナちゃん、久しぶり!』

『その声は…』

セレナの事をちゃん付けで呼ぶ男はひとりしかいない。

声のする方に顔を向けると、やはりダイゴだった。

彼は本当にわからない人で変わった人だ。

どれくらい変わっているかというと、家の場所を教えた事なんてないのにいきなり『来ちゃった。』とか言って上がり込んだりしてくるくらい変わってる。

しかも手土産付き、それも毎回何時間も並ばないと買えないような話題のお菓子ばかりを持ってくる。

おかげで少し太ったセレナだったが、今はその話を置いておこう。

他にも例を挙げればキリがないが、とにかく、そんなストーカーダイゴもここしばらく家に押しかけてこなかった。

どうせどこかの山や洞窟に石でも掘りに行ってるんだろうと思っていたら、まさかの街中でバッタリ遭遇。

こんな街中で会うなんて珍しいと思っていたら、セレナの考えが伝わったのか、ダイゴは眉を顰めて言った。

『もしかしてキミ、ボクをただの石マニアだと思ってる?』

『はははっ!まさか!』

冷汗まみれの笑顔が痛い。

『…いや、ボクがどれくらい強いのか、キミだって知ってるはずだよね。』

『もちろんです。』

『よし、セレナちゃん。本気で勝負するなら覚悟してくれよな!』

『は……、…えっ?』

『いけ、メタグロス!』

『えええ!ちょっダイゴさん、バトルするなんて一言も…ッ!』

『ポケモントレーナー同士、視線が合ったらバトル開始だよ。』

低い唸り声をあげて現れたのはメタグロス。

気合十分と言ったところだろうか。

避けては通れぬポケモンバトル、仕方が無い。

セレナの今日の手持ちは3匹しかいないが、彼らならなんとかやってくれるだろう。

『じゃあこっちは…うわっ!』

どれを出そうか迷っているとひとつのボールがバッグから飛び出していった。

地面をゆらゆらと揺れるボールの中から現れたのはギラティナだった。

『ちょっ、ギラティナ!勝手に出てきたらダメだってば!』

「セレナ、ここはワタシに任せろ。」

『あーもうわかったわかった、じゃあギラティナ、メタグロスに波導弾…』

「あのダイゴとかいう男、前々から気に入らなかったのだ。」

『…は?』

「二度とセレナの前に姿を現せないようにしてやる。」

ギラティナの波導は今、憎悪と嫉妬で紫色だ。

『いやいやいや!メタグロスね!メタグロスに波導弾だからね!?』

「知ったことか。」

なんという反骨っぷり。

普段セレナにベッタリで、セレナの言う事には首を縦にしか振らないギラティナが、まさかセレナの命令を無視するとは。

それほどまでに嫌われているダイゴが不憫である。

『え、ボクに波導弾?』

『ああああダイゴさん!危ないかもしれないですから離れて下さい!』

言い終わると当時に街中で盛大に放たれる過去最大級の波導弾。

ポケモンは嫉妬でここまで強くなれるんだなとセレナは思った。





パラパラと舞い散る粉塵の中、メタグロスの後ろで動く人影があった。

『トレーナーのボクを狙ってくるなんて、ボクは相当キミのポケモンに嫌われているらしいね?』

クスクスと笑いながら言ってくるダイゴ。

メタグロスがかばってくれたから無事だったものの、仮にも死にかけたというのにとても楽しそうなのは何故だろう。

『わわわ…大丈夫ですかダイゴさん、ごめんな…わっ!』

バッグの中からまたひとつボールが飛び出す。

地面をバウンドして開いたボールから出てきたのはパルキアだった。

「テメェじゃ無理なんだよムカデ野郎、オレがやるからテメェは下がってろ」

『ちょっと!ぱるぱるまで勝手に出てこないでよ!』

「そのぱるぱるっていうのをやめろって言っただろうがぁ!」

『ふふっ、ダブルバトルかい?もちろん受けて立つよ!いけ、ボスゴドラ!』

『だだだだダイゴさん、まさかさっきの波導弾のお返しに破壊光線を私に向けて撃つなんて事はしないですよね!?』

『あははははっ!』

ダイゴはただただ笑っているだけだった。





「楽しそうだな、ワタシも混ぜてもらおうか」

そんな声が聞こえた。

途端セレナはバッグの中にあった残りひとつのボールを押さえつけたが時既に遅し。

易々とボールから出てきたのはディアルガだった。

『ディアルガまで…』

「そう目くじらを立てるなセレナ、ワタシはアイツらのバトルにオマエが巻き込まれぬよう守る為に出てきただけだ。バトルには参加しない。」

さすがディアルガだ。

パルキアはどうあれ、ギラティナまであんな状態では今セレナが頼れるものはディアルガしかいない。

するとパルキアがディアルガに言葉をかける。

「ディアルガ、あの男の持ってくる“ケーキ”や“プリン”ってヤツのせいでセレナが太ったんだぞ?」

「知っている。」

「オレたちが家に置いてけぼりくらってる間にセレナはアイツと会ってて、自分たちだけ美味いモン食ったり、遊んだりしてるんだぞ?」

「知っている。」

「この前なんか別れ際にほっぺにチューしたんだぞ?」

「ニンゲンよ、些か調子に乗り過ぎたようだな?」

『えええっ!?ディアルガ!?ってかなんでディアルガもぱるぱるは知ってんのよ!』

「オレは家で留守番なんてゴメンなんだよ!オマエは知らなかっただろうが、オマエが家にいない間も空間を操ってずっとオマエのそばにいたんだぜ?」

あとぱるぱるって呼ぶな、と小突かれた。

ディアルガはセレナが不在の間、時間軸を歪めて二人の様子を見ていたとの事。

『ねぇディアルガも、パルキアもギラティナも!少しは落ち着いてよ!』

「この苛立ちは、あのニンゲンを時の最果てに閉じ込めなければ納まらぬ。」

「オレ様が直々に狭間の空間に飛ばしてやるよ。」

「破れた世界で余生を過ごすがいい。」

ダメだ、この三竜は生身の人間に自分に与えられた力を使う気満々らしい。

どうしようどうしようと頭を抱えていると、ふとダイゴと目が合った。

『セレナちゃんはポケモンの言葉を理解できたよね?シンオウの神様たちはなんて言っているのかな?』

ギゴガゴーゴーッ!!

グギュグバァッ!!!

ガギャギャァッ!!!

そう、セレナにはちゃんとした言葉として認識できているポケモンの声も、ダイゴや周りの人にとってはただの鳴き声にしか聞こえないのである。

『あー…えっとですね…』

すると揉めていた三竜が口を閉じ、一同にダイゴを睨みつける。

「ダイゴとか言ったな、貴様…セレナに触れておきながら笑顔で生きて帰れると思うなよ。」

「ホウエンのチャンピオンだかなんだが知らねぇがオレ様にかかればポケモンバトルなんざ朝飯前なんだよ。」

「貴様のようなニンゲン風情にワタシのセレナを奪われてなるものか、二度と出会えぬよう破れた世界に閉じ込めてやろうか。」

『…ローテーションバトルでお願いします、と言っております。』





荒い息で舌なめずりをするギラティナ。

瞳孔が開きっぱなしで拳を固めるパルキア。

太く硬い尻尾をバンバンと道路に叩き付け苛立ちを抑えきれないディアルガ。

三竜は俺がやる俺がやると未だに順番を決めるのに揉めていた。





ギゴガゴーゴーッ!!

グギュグバァッ!!!

ガギャギャァッ!!!





『じゃあトリプルバトルにしようか』

『よ、よろしくお願いします…』

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