学園BASARA

□6月:雨が降っても傘ささない
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■VS風紀戦隊ナガマッサー



『おはっ☆』

『…おはよう…』

今日は珍しく早く起きられた

ゆっくり朝ごはんを食べて、ゆったり余裕を持っての登校

食パンを口に加えて猛ダッシュしない通学なんて何か月ぶりだろう

『いやぁ今日はいい天気だね!なんか清々しいよ!はははっ』

今日は朝からついてる

いつもは下駄箱で出会う市と始めて校門手前で出会ったんだから

『…ふふっ…孔怜は朝から元気ね…』

彼女は市、クラスは違うけど私の大切な女友達の一人

顔もスタイルも良いし、黒くて艶のある髪は思わず見惚れるくらいだし、頭だってめちゃくちゃいい、誇れる友達なのだ

『…珍しいのね、孔怜がゆっくり歩いて登校するなんて…』

『うん、今日はなんか知らないけどバッチリ目が覚めたんだよ』

これは何か良い事が起きる前触れに違いない

そんな事を思いながら市と昨日のテレビの話をしている時だった





『三年一組神宮寺孔怜!この悪め!そこになおれ!今日という今日は貴様を校内に入れる事は断じて許さんッ!』





あるぇ?(コ○ン君風に)

おっかしいなぁ?(コナ○君風に)

今日は何か良い事が起こるんじゃなかったのか

早起きできた程度で喜んでる私を貶める為の早起きだったのか

とんだヌカ喜びだよ

『いきなり人を悪呼ばわりしないでくれる?正義の使者でも気取ってるつもり?浅井長政』

もう少しで校門を越えられたというのに、門柱の影から呼ばれてないのに飛び出して来た浅井長政によってご機嫌グラフは一気に急降下、これ以上下に行けないくらい不機嫌になった

奴は同じ三年で、組は忘れた、ごめんそこまで君に興味ない

ただ私の中では影の薄い彼が所属しているのはいろいろと面倒臭い風紀委員の委員長だという事だけは知ってる

毎朝校門で生徒の着衣や頭髪の乱れをチェックしては先生にチクるというつまらない仕事をしている

着衣の乱れや頭髪の乱れが人に迷惑をかけるとは思えないんだけど、問題は他人に対する迷惑をではなく学校全体の評判が下がるということなんだと思う

そりゃ学校の評判が下がれば志望者数も減る、地域住民の目も痛くなる

生徒の数が減れば納められる学費も少なくなる

関節的に先生達の給料も減るし、私立だったら経営悪化に伴って廃校になるかもしれない

まぁこれは多分そうなんじゃないかな私が勝手に思ってるだけなんだけど

それでも結局先生達の都合で成り立っているって訳だ

そもそもバイトと違ってお金が貰えるわけでもないのに風紀委員とかいう何であんなしょーもない仕事するんだろうか

あれか、人を裁いて快感を得る変態なのか

『何が正義で何が悪なのかはアナタが決める事じゃない、でしょ?』

私たちの横を通り過ぎる生徒は、また始まったとばかりにこちらを見てくる

正直風紀委員と敵対するのも今日が初めてじゃない

いつもは時間にギリギリに登校するから風紀委員が取り締まった後の校門を通ってたり、その辺のフェンスを登って校庭から回り込んだりしてる

浅井君以外の風紀委員が相手の時は軽くあしらってそのまま通過してたんだけど

今日は始業までまだ時間はあるし相手はあのねちっこい浅井長政

せっかく早めに登校できたのにいつもと同じギリギリに着席しそうな予感





『校則ではピアス、ネックレス等の装飾品の着用は禁止されているはずだと前にも言ったはずだが?』

『じゃあ言うけど、あそこにいるザビー先生は指輪をしていますけど?保健室にいる明智先生はなんかトゲトゲの痛そうなイタい首輪してますけど?』

『明智先生には何度も注意をしているが聞く耳を持たん、今日にでも理事長に報告する予定だ、ザビー先生は…』

『オーゥ、神宮寺サーン!コレハ宗教上仕方ガナイノデース!』

英語教師の頭頂禿ザビー先生、ネイティブのはずなのにジャパニーズイングリッシュの使い手、どこから湧いて出た

ザビー教の教祖なんだから宗教上の決まりとか都合良く作れるだろうに、そうは言えずに苦笑いで自分の気持ちを静めた

鼻歌交じりで去っていくザビー先生の背中を生暖かい目で見送る

『教職員は校則を守らなくてもいいんだ?生徒の見本となる教諭なのに?』

どうせザビー先生を例に挙げたって引き下がる浅井君じゃない事はわかってた

先生に向けた半笑いを保ったまま浅井君を見る

『そうは言っていない、ただ校則に書かれている項目すら守れていない貴様に言えたことではないという事だ!』

『じゃあ浅井君は校則に書かれてなければ何をしても良いって言うんだ?』

『この世には憲法と法律と道徳というものがある、それを主軸として校則がある、校則に書かれていなくとも常識の範囲内で許される事なのならば好きにすればいい!』

『じゃあまず校則には書かれてないけど道徳の範囲内で物を言わせてもらうと、人をいきなり悪と決めつけて公衆の面前で怒鳴りつけるのはどうかと思うけど?』

『悪に悪と言って何が悪い!貴様は最高学年だろう?貴様の着装や行動を周りの一、二年が校則違反だと知らずに模倣してしまったらどうしてくれる!それそこ学園の風紀が乱れる!もちろん原因は貴様だ!』

『校則違反と知らずに?それはちょっとおかしいんじゃないかな?』

私は鞄の中から生徒手帳を取り出して言った

『入学と同時に校則が書かれた生徒手帳が配られるんだから中身には目を通すはずだよ?仮に校則違反だと知らずに真似したっていう事に私は理由にならないんじゃないかな?真似するもしないも、そんなもん自己責任でしょ?』

相変わらず浅井君は凄い目つきで睨んでくる

おぉ怖い怖い、とてもじゃないけど直視なんてできないよ

ふと目を逸らせば、私たちの周りに取り巻きができていた

先輩頑張れとか、いいぞもっとやれ、っていう声が聞こえる

中には以前落とした生徒手帳を届けてくれた元親と愉快な仲間たちや、二年の伊達君と片倉君の姿もあった。

というか元親と愉快な仲間たちの方が、校則違反ヨロシクな格好してるのに何でターゲットは私?

あぁ、私は囮なのね、オトリ…

『仮に私が悪だとして、丸腰のか弱い女子高生に鍛えた高校男子が武器となり得る物を持ちながら怒鳴るのは、ハタから見たら行き過ぎた指導っていう風に捉えられるんじゃないかな?』

『…くっ…』

そうだそうだと歓声が沸きあがる

なんか教室の窓から身を乗り出して応援してる生徒もいるんだけど

これは私に期待が集まってるってことでいいのかな、そう受け取っていいよね

じゃあいい機会だし、みんなの分も合わせて風紀委員をぶちのめしちゃおうかな

『もしそうなったら風紀委員の存亡どころじゃなくて学園全体の評判、評価が落ちる結果になるよね?それで来年の志望者数が減ったりしたらどうするの?』

『…き、貴様ぁ…』

『それに校則違反をした生徒を追い返す事は、風紀委員会には認められてないでしょう?』

私がそこまで言うと風紀委員を代表して私に挑んで来た浅井君は、もはやぐうの音も出ない程ダメージを受けたらしい

膝をついて頭を垂れたまま動かなくなった

よし、教師が一緒にいないことをいい事に今日は言いたい事を全部言ってやった

よくやったとばかりに盛大な拍手が私を包む、それに応えて私は右腕を高々と上げた

諸君、我々悪(?)が正義(?)に勝ったぞ

これでようやく教室に行ける





『待たせてごめんね、行こう』

『…長政様…』

隣でずっとバトルしてた私たちを見守ってた市だが、その表情はいつもに増して暗かった

しまった

市が隣にいたのに浅井君に言いたい事を言ってしまった

残念な事に私の大嫌いな風紀委員の浅井君と市は付き合ってる

きっと彼氏である浅井君と友達である私、どちらの応援もできなくて、何も言えずに行く末を見ていたんだろう

『あ、ごめん市、その…』

『…ふふ…いいの、これも市のせい…だから…』

市は凄くネガティブ、なんでも自分が悪いと思い込んでしまう節がある

そしてネガティブな時に決まって市の足元から黒い手が出てくる

私はその黒い手を踏みつけつつ、市を慰めた





『フン、くだらん』

市を慰めている時、後ろから小声でそう聞こえた

はっとして振り返った時には既に取り巻きもいなくなっていて、声の主が誰なのかわからなかった

冷ややかで、馬鹿にしたような、そんな物言い

誰だ

今私を馬鹿にしたのは誰だ





『…孔怜?』

潤う瞳で見つめながら市が私を呼んだ

さっきの声は気になるけど考えてても始まらない

せっかく早めに登校できたんだし、とりあえず教室に行こう

『…ごめんなさい、孔怜が上の空なのも私のせい…』

『そんなことないよ?もとはといえば私…いや、浅井君が突っかかってきたせいなんだから市は関係ないよ?…あ、ごめ…』

『…ふふ…それもそうね…』

『え、市ッ!?』

本当に浅井君の事好きなの?って思う発言にドキッとしたとある日の通学風景でした

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