学園BASARA

□5月:黄金週間を経て
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■妄想フルスロットル



『ただいまやっほーい!うひゃうひゃうひゃひゃひゃ!』

家に着き、内鍵をかけた瞬間壊れた自分が楽しくて仕方が無い

そりゃ壊れたくもなりますよ

両親は昨日から二泊三日の温泉旅行、この可愛い愛娘を置いて!

でも全然悲しくない、むしろ嬉しい、置いてけぼり大歓迎ですよ

たまには家に一人っていうのも新鮮で楽しいじゃない

心置きなく好きなことを好きなだけ楽しめるじゃない

子供だけで家に留守番だなんてこんなに素晴らしいことはない





夜、夕飯を食べた後はひたすら趣味に没頭していたらしく、気が付けば時計の針は九時前を指していた

沸かしていた風呂で一日の疲れを流し、今日は少し早目に温かいベッドに潜り込む

明日は早く起きて優雅に朝食でも食べよう

おやすみなさい





ピーポー

 ピーポー

  ピーポー






目を瞑ってしばらく、遠くで救急車の音が聞こえる

誰かが事故にあったのか、それとも病気で倒れてしまったのか

その人がどうか、無事でありますように





ブォン  ブォン

 ブオォオォォオォオォン

  ブォン   ブォン






遠くで何処ぞの馬鹿が暴走運転してるよ

うるさいなぁ

早くどっかに行ってくれないかな

せっかく気持ちよく寝ようとしてるのにバイクの音がうるさくて寝られない

なんでそんなに吹かすんだろう、ガソリンの無駄にしかならないのに

これも佐助のせいだ

バイクの騒音で寝られないのも、放課後ザビー先生に捕まって愛がうんたらかんたら永遠に話されたのも全部佐助のせいだ

明日は佐助にどんなイタズラを仕掛けてやろうか

そうこう考えている内に睡魔が来た

暴走バイクも何処かに行ったみたいで音も聞こえない

やっと静かな夜になった





じゃあおやすみなさい

明日も素敵な一日になりますように










ブルゥン ブルゥン

パラリラパラリラ

ブォンブォォォオォオォン





『うるせぇぇぇ!!!!』

睡眠妨害上等、まだ九時とはいえこの爆音は迷惑防止条例違反間違いない

むしろ役所が許しても私が許さない

何処かに行けとは言ったけど近所に来いとは言ってない

そもそも誰だ、こんな夜中を爆音で走り回ってる奴らは

文句の一つでも言ってやろうと出窓のカーテンを開けて家の前の私道に屯っているバイク集団を睨んだ





『ん?おいあれ神宮寺じゃねぇか!?やっぱりここだったか!ずいぶん探したぜ!』

文句をいう前に暴走族の一人が出窓の私に気づいて声をかけて来た





パタンッ





私は静かに出窓を閉める

『おやすみなさい』

『おいコラ待ちやがれ』

見間違いでありたい

あれは二年の長宗我部元親だ、間違いない

何故学園の不良代表である彼がお供の野郎どもを引き連れて家の前にいる?

しかも私を探してた?

対人撲殺武器の釘バット片手に?

明日は平日、普通に登校日なのに深夜にわざわざ家を探してまで会わなければならない用事でも?

私何か変な事でもした?

粋がってたから目を付けられた?

今日の放送で彼を逆撫でする内容があったとか?

松永に暗殺してくれば単位をやろうとでも言われたとか?

『とりあえず降りて来いよ、話はそれからだ』

Oh☆

降りて来いとはどういうことでしょう

鬼の所に自ら足を運ぶなんてそんな怖い事できません

地方によって異なるが「お布団被ってちょいと来ておくれ、鬼が怖くて行かれない」とはよく言ったものだ










『あのぅ、なんでしょう?』

しばらく考えたが、やはり出て行くしか道は残されていなかった

チェーンを取って、二重ロックも解除して、無防備なまま玄関を出る

『おう、神宮寺孔怜ってのはおめぇだな?』

ここでウソは言えない、私のすぐ隣の門柱には“神宮寺”と表札が付いている

搾り取るような声で返事をすればふぅんと顎に手を添えて、爪先から頭の先まで舐めるように見てくる

学年は違うし会う機会もあまりない

放送での私の声は聞いたことあるだろうけど、中の人は見たことはないんだろう

お互い話すのもこれが初めてだし

でもそんなに珍しい物を見るような目を向けられても困るんだけど、てかその釘バットは使ったことがあるのかな

なんか赤いの付いてるけど、使ったことはもちろんないよね?

『俺は長宗我部元親、まぁ知ってるだろうけどな』

もちろん存じておりますとも

風紀委員の浅井君が目の敵にして毎度性懲りもなく追い掛け回している所を目撃しておりますから

そんな長宗我部君も物理の雑賀先生には頭が上がらないらしいけど

助けを呼ぶなら雑賀先生か

携帯に番号入ってるし何かあったら電話しよう

『これ、おめぇのだよな?』

おもむろに差し出してきたのは、生徒手帳?

『え、これは?私の?え?』

『この写真はお前じゃねぇのかよ』

開けば私の顔写真

おかしい、生徒手帳は滅多に開けない鞄の前ポケットの中にしまってるのに、どこで落としたんだろう

『俺のダチが帰り道で拾ったってんでよ、まぁ明日学校で渡してやってもよかったんだが朝も昼も放送委員で忙しそうじゃねぇか、それにこういうのって早く届けたほうがいいだろ?』

それでわざわざ家を探して届けてくれたの?

明日朝早く行って校門で私が来るのを待つとか、先生に渡しておいて欲しいと頼めばそれで済んだかもしれないのに、ガソリンと爆音をまき散らしてこんな夜中に高校生がどこにあるかもわからない落とし主の家を探しに徘徊してたの?

なんだ、意外と馬鹿で良い奴じゃないか

ちょっと見る目が変わったかも

『長宗我部君ありがとう!あと拾ってくれた友達にもありがとうって伝えておいて!』

『よせよ、長宗我部君だなんて気持ち悪いじゃねぇか、元親でいいぜ?それにこれも何かの縁だ、これからもよろしくな孔怜』

お前の方が一年上だしな、と豪快に笑う

この瞬間から私と彼は友達になった





長宗我部元親か

なんだ、思ってた以上にいい人じゃないか

今まで接点がなかったけど、今時学ランの表裏に刺繍なんて流行らない格好して眼帯にノーへルのバイク通学してるから絶対に不良で悪だと思ってたのに

普通のバットでも十分凶器なのに更に釘を打ち込んで殺傷力を増幅するのに特化した打撃用武器を持ってるけど、見た目と違っていい人だ

まぁ付け加えるのであれば、その釘バットに有刺鉄線を巻き付ければもっと強化できるのに、いや、私は何を考えているんだ

『本当にありがとう、後ろのみんなもありがとうね!』

『アニキのダチは俺達のダチだ!当然の事をしたまでだぜ!』

この集団は根っからの悪じゃないんだ、本当は良い心の持ち主たちなんだ

なんかこの集団を好きになりそうな自分がいる

『おい野郎ども!孔怜に挨拶しろよ!』

『アネキ!アネキ!アネキ!アネキ!』

それは挨拶なのか?





ふと元親の後ろにあるご近所さんのカーテンが微かに開いているのが見えた

よく見ればその隣の家も、向かいのご近所さんもカーテンがほんのり開いている

やばい、この夜中にバイクの騒音撒き散らしてる集団と関わりがあると思われた!

両親の留守を狙って密会してると思われた!

違うんですよ!

私はこの人たちとは学校が一緒なだけで関係ないんです!

ただ落し物を届けてくれた良い不良なんです!

良い不良ってなんだ、あぁでもいい人なんです!

けど仲間じゃないから、同じグループじゃないから疑いの眼差しを向けないで!

あと話がややこしくなるから親にも言わないでよ!

意外だった元親のいい人オーラに包まれててここが近所でしかも深夜だったってこと忘れてたよ!

あぁもう大きな声でアネキコールはやめてくれ!!

時間帯を考えろおぉおぉおおおッ!!




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