十五夜

□3の奇跡
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―放課後―


「よし、そろそろ来るころか・・・」



今は放課後、部活が始まる時間。

ぼくたちバスケ部Rは体育館に集合していた。


本当は今日部活がないから、体育館に残っているのは僕たちだけだ。



「・・・にしてもおせぇな」



「・・・・時間を守らないとは、最低のマナーなのだよ」



灰崎くんと緑間君が少しイライラしていた。

今日の##NAME##さんの態度と、ビデオで見る態度があまりにも違いすぎて、というのもあるだろう。



「・・・・いったん探しに「だからちげぇって言ってんだろ!!」



今日に外から怒号が聞こえた。

誰か、呼び出しされているのでしょうか?



「っざっけんなよ糞がッ!誰がお前みたいなやつに負けるかよ!」



「英雄ぶってんじゃねぇよ!!」






「ちょっと見に行ってみようぜ?」

「ちょ、灰崎君・・・」


さつきさんが止めにかかる。

「・・・乗ってやるよ・・・」


「ちょ、大ちゃん!」


「はぁ、除くだけだぞ」


「なっ、・・・じゃぁ行ってみましょう」


「テツ君まで・・・」



みんなで怒号の響く場所まで行く。


すると・・・・・



「「「「「「うわぁ・・・」」」」」」」


ざっと数えて5から6人程度、しかも体つきのいい男子生徒がいた。


「あぁ?なんか言い返してみろよぉッ!!」



『あぁ、もちろんそのつもりだ。俺がずっと黙っていると思ったら大間違いだ』



・・・驚いた。本当に。



囲まれていたのはまさしく名無しさんさん。


彼女がいったい彼らに何をしたというのか。


「うわ〜名無しやばくない?」


「そうだね・・・しばらく見ていようか・・・」








『おら、てめぇら俺の顔見てるだけじゃ何も始まらねぇぜ?拳でもなんでも俺に仕掛けてくればいい』

彼女が、彼らを挑発した。すると一人の男子が・・・・

「んのっ・・・!糞がぁぁぁああ!」



−バキッ!−




「なっ・・・!!」


「真正面からあの拳を・・・!」





「んだてめぇ・・!舐めてかかってんのか!?」


「はっ、しょせん口だけじゃねぇか!」



『ククククク・・・・・ッはっははははっ!』



急に名無しさんさんが笑い出した。


狂ったかのように。


『はぁあ、これで俺もお前らのこと殴れるぜ』


「あぁ!?てめぇ・・・!」



『俺はあいにく、何もしてこないやつに手出しはしない。そこまで俺の脳内腐ってないからな』



お前らと俺は違う、と名無しさんさんは言った。


『さぁ、歯を食いしばれ。俺の顔に傷をつけた大小は高いぜ』


「っ・・・!うおぉぉおおッ!」



一人の男が、殴りかかった。


「きゃっ・・・・」



さつきさんが、目をつむる。


−バキッ−


殴りかかろうとしていた男子生徒が、ふっとばされていた。



「え・・・」



「お、おい!しっかりしろ!・・・気ぃ失ってんぞ!!」


「なにっ!?こ、こいつやべぇっ・・・!!」



『あいにく俺は喧嘩慣れしてるんでなァ。前の学校でもこんなこと少なくなかったからな。
お前らと似たようなバカが何回も喧嘩ふっかけてきてよぉ』


名無しさんさんはニタ、と微笑しながら男子たちを見下ろしていた。否、見下していた。


ぼくたちも、開いた口がふさがらない。



『ただバスケがうまいだけで調子こいてんじゃねぇとか、偉そうにしてんじゃねぇとか、いつもそればっかりだ』



名無しさんさんが一人の男子に近づく。

「ふぐっ・・・・・・?!」



『ここに来ても、またいつも呼び出しされて・・・・お前らと似たようなこと言うんだろうな。毎日、毎日、毎日ッ!!』



名無しさんさんの足が男子生徒の腹に食い込む。



『こっちもストレスたまんだよっ!お前らみたいな屑が、間抜けが!・・・お前らだけじゃない。今日のバスケ部もそうだ。あいつらもきっと私みたいになる。ぐちゃぐちゃの、どろどろの、べちゃべちゃの、ぬちょぬちょにな』



「・・・・・・・」



赤司君が、黙り込んだ。


赤司君だけじゃない。ここにイル全員が、彼女の姿を目の当たりにして、絶句している。



『・・・語りすぎたな。今日はここまでにしといてやる。呼び出す相手を間違えたようだな。』


ふんっ、と言って足をどけた。


『もし、今日みたいなことがあったらお前ら全員ぶっ殺す



彼女の瞳が、変わった。人を射殺すような、眼。


何もうつさないような目をしていた。



『去れ、今すぐ』



男子生徒全員が一目散に逃げて行った。


いつの間にか彼女の眼は冷たいものから暖かいものへと変わっていた。



『もう、大丈夫だ』



体育館の隅に目をやり、
一言声をかけた。


「ニャー」


『ひでぇ傷だな・・・血が・・・』



真っ白の猫が名無しさんさんに飛びついた。

そうか、今理解した。名無しさんさんはあの猫をかばったんだ。


『お前は今日から私が飼おう。名前は・・・そうだな・・・』



「ニャー、ニャー」


『・・・ニーだ。よし、ニー、お前はニーだ。』



「ニャー」


猫は名無しさんさんにかなりなついているようだった。



「え、ちょ、すげぇ変わりよう。」



「た、確かに・・・・」


灰崎君が絶句している。


「なんか、いつもよりほんわかしているのだよ」



「うわ・・お前がほんわかとか・・・・ありえねぇ」



「うるさいのだよ」



『ふふっ、ニーはかわいいなぁっ』



「「「「「「「!?」」」」」」」」


『ニー、ニー』


「ニャーニャー」






「わ、笑ってる・・・っ!?」



「しかも口調まで・・・・」


「驚きなのだよ・・・」


「ああしてればかわいいものの・・・」


「あのねこも気持ちよさそうですね」



『ねぇニー、私ね、今日体育館で待ち合わせしてたの。ええ、バスケをするっていう約束をしていたの。だけど呼び出しされて時間から利オーバーしちゃった。もうさすがに彼らも帰ったよね。さすがにそこまでバカじゃないだろうし』


ははっ、と彼女は寂しげに笑う。



『それにねニー、私少し安心しているの。彼らと戦わずに済んで。』


「ニャー・・・」



『私の期待が外れたら、・・・って思うと、ね。本気にさせてなんて言ってしまったけど、たぶん無理。彼らには私には届かない。私は、「ニャー」』



猫が、言葉を遮った。


『私はっ・・・神が作り上げた最高で最悪の失敗体なんだからっ・・・・・』



名無しさんさんの声が震えた。顔はよく見えないが、泣きそう、というのは、すぐにわかった。


『彼らのこと期待していいと思う・・・?ニー・・・』



「ニャー」


『かわいいなぁ・・・ニー・・・』



名無しさんが、猫を抱きしめた。


『バスケを・・・楽しくやっている自分にもどりたいよっ・・・!』


「・・・・!!」




彼女が吐いた本音。今にもつぶれてしまいそうな体は震え、声もいとのように細い。



ぼくは、なぜか体が自然と名無しさんさんのほうへ動いていた。


「名無しさんさん」



『っ・・・・・・・?!!!!黒子、なぜここに・・・・』



元の、冷たい瞳の名無しさんさんにもどる。



『いつから居た・・・・?』



「それは教えません」


彼女と僕のにらみ合いが続く。



「僕たちは絶対に、あなたの期待を裏切りません。」



『ほぉ、絶対の自信があるようだな・・・・』


「えぇ、絶対の自信があります。」



堂々と彼女を見据える。



「・・・・でも、今の僕らには貴方の足元にも及ばないでしょう。なので、一週間、時間を下さい。」


『一週間で何ができると?』


「できますとも。一週間もあれば。」



「ちょ、すげぇこと言ってるぜ」


「やるね。黒子」




『一週間たって、それでどうするつもりだ』


「あなたとぼくたちで、一対五で勝負します」





「おいっ」


「うわー」



「・・・・・」



『いいだろう。ただし、その試合では、言い出しっぺのお前は必ず試合に出ることだ。』



「わかりました。」



『・・・一週間の時間をやり、その一週間後、俺とお前たちとの勝負、これでいいな』


「はい。絶対に僕たちはあなたを本気にして見せる。そして、バスケを心から楽しんでいたころの名無しさんさんに戻してせる!」



『へぇ、わかった。その勝負、真向からうけてやる。その時は何があっても時間に後れを取らせない。・・・一週間後が楽しみだぜ』


「・・・・覚悟しといてください」



『そのままお返しするぜ』


猫を抱き、名無しさんさんはその場から去って行った。



「負けません・・・絶対に!!」








-----------------------おまけ-----------------




「黒子、ずいぶんと立派なことを言ってくれるじゃないか」



「・・・・・・すいません」

「でもテツ君かっこいい!」



「なんか妙に火がついてきたぜ」


「バスケがやりたくなってきたのだよ」

「お菓子食べたいー」

「急に緊張感消えたなオイ」



僕はこってり赤司君からお説教を喰らいました

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