三日月

□二球目
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―ドロッ―



「きゃああああああああああっ!!」


甲高い声を上げる名無し。彼女は切り付けて血が付いたカッターを荒々しくなげた。

床には彼女の血。汚い。これを掃除するのか。とのんきなことを考えていた。

すると、粗々しく開いたドア。テニス部レギュラー全員が駆けつけた。



「ッてなにが・・・!!?」



ブン太は私達を見て驚いた様子だった。


ううん、みんな、そう




柳生「・・・あなた一体名無しさんに何をしたんです?」

彼は戸惑った顔で私を見た。こんな眼、見たことない。

彼が立てている殺気、これだけで私を不安にあおるのは十分だった。



『は…?ちょっとまって…?私…何もしてないよ…?』


声が震える。足がすくむ。ちょっと待って。


私、もしかして…加害者?

「ひっく…わた、わたしぃ…ッ、く、先輩に…っ、死ねって…!!お前うざいって…っぇ…!!」

『あ…、あたしッ、あたし何もしてないッ!!信じて!!』


彼らを見る。お願い。信じて。私の望む答えを出して――――




「こんな状況で誰がお前を信じられるかよぉッ!!」


あぁ。駄目だった。


そうか。そうだよね…。目の前にある嘘も、可能性としては真実になるもんね…


「本当に…か?名無しさん…」


弦一郎が戸惑いを見せる。


「真田…じゃぁ俺らが目の前にしているものはなんだい?これを見ても、彼女が犯人じゃないと?」


駄目だ。完全に精市とブン太は私の敵。

嘘を真実に塗り替えてる。


『そんな…!!!』



「黙れ!!名無しを切った癖に!!」


赤也…君も…。悲しいな…。


「お前なんか…

大嫌いだ…!」



―バキッ!―


次の瞬間、誰かに私は殴られた。



音を聞いてのとおり、勢いよすぎるあまり、私の体は宙を舞った。



『っ・・つ・・』


私は赤也に殴られた。

ガンっ、と勢いよくロッカーに頭をぶつける。

それを理解したのは、赤也に胸倉をつかまれた時だった。

『あ…赤ッ』


名前を呼ぶ前に、頬を殴られる。


「気安く名前を読んでんじゃねぇよっ!!」


次はお腹に。


『ッ…!!』


私は私を殴っている赤也の手をつかみ、赤也を払いのけた。

『っ、バカじゃないの!?あんた…、』


「バカなのはてめぇじゃねぇか…!!」


赤也が私に殴りかかる。みんな、いきなりのことで状況が把握できていないらしい。



『やめっ…なさい!!赤也!!』


「名前で呼ぶなって言ってんだろッ!!」


彼が私の顔を狙う。別によけてもよかったが、私がよければ彼の拳が窓ガラスに直撃する。

そんなんで怪我してテニスができなるのはイヤ。


私はそれを避けるべく、赤也の拳を受けた。


―ガシャンッ―


「んで…今あんたよけられただろッ、何でよけなかった…!?」



赤也は私がよけられると察知したみたい。


私は怒りをあらわにして


『あんたの手は人を殴るためにあるの?!そんなことしてテニスができなくなるのはあんたよ!!
テニスをする手をこんなことに使うな!』


「ならあんたはどうなの?」


『な――――』


突然の痛み。先ほどの赤也の攻撃とは比べ物にならない。

「俺らの気持ち…分かるか?」


『んぐぅッ』

「わからないよね…しょせん…そんなもんだったんだね…」


どんなもの?裏切ったのはそっちじゃないか。


精市は私のお腹を力強く踏み潰す。


『私はッ…や…てな、』

「彼女、泣いてるじゃないか。理由もナシに泣く人なんていると思う?」


「あんなことした挙句、嘘までつくなんて・・・最低ですね、あなたは」



「せっかくいいマネージャー見つかったのに・・・残念だよ」


痛い。痛い。痛い。


「お前なんか最低だッ!!!」


「いいやつだと思ってたんだけど・・・・それもまぐれなのかよぃっ!」


怖い。怖い。怖い。


「・・・当然の報いだな。」



柳「ラケットを使ってはどうだ?」


みんな殴る、けるからは一斉にラケットで攻撃し始めた。


やめて。ラケットは、こういうことには使わないで。



・・・この声はきっと届かないだろうね。



痛いなぁ。いつまで我慢すればいいんだろう。


意識も朦朧としてきたし。



あの賭けは私の負け、か。


彼等を信じた私が馬鹿だったのね・・・





さよなら。幸せだった日々。



『カハッ・・・』


「・・・このことは絶対に許さないからね?あと・・・」



精市は私の胸倉を掴んで冷たい言葉を放った。


幸「次やったらこんぐらいじゃすまないから・・・・」



そういうと精市たちは部室から出て行った。



嘲笑った魔女と共に。



『あははっ・・・ふふっ・・』


悲しい。これだけ。


信じてたのに、ずっと。ずっと。


それなのにこんな簡単に、千切れてしまうなんて。


『あー・・・さすがに…やばいかな・・意識が・・・』


立つことがやっとの私は、歩くことさえもままならない。



誰か。助けて。


意識が途切れ、倒れた私を支えてくれたぬくもりが何か、私は感じ取ることができなかった。

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