三日月

□六球目
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『はぁ・・・・』

むせ返るようにじめじめした朝。
梅雨真只中に、イラつきが高まるころ。


私は完全に毎日繰り返されるいじめにうんざりしていた。

この学校は相変わらずくだらないことがすきなのね。

こんないじめ、すっごくツマンない。


『立海大付属中学校ってこんなに堕ちてしまったのね』


私はそうつぶやく。本能的に。周りの奴らも、テニス部も。

くだらないことして、楽しんでる。




だって・・・・






『可愛そうに・・・・』


靴箱を開けるとそこには、


子猫が腸引きずり出されて死んでいるんだもの。




瞳孔が開いてるって事は、苦しんで死んだのね。



『・・・・・ラケットの跡・・・?』


子猫の周りにはラケットの跡がたくさんついていた。

痛々しいほどの猫の傷跡。ところどころ、腸さえも潰れている。

『…かわいそうに…!!』


私は子猫を抱き上げ、埋めに行く。
そして、ラケットの後から、犯人を推測した。

『っまさかっ・・・・・!!』




猫を埋めに行った後、テニスコートへと向かった。








『・・・・・誰?あれやったの』


私は部室に荒々しく入る。雑に開けられたドアは、ギシ、と音を立てた。


「なんなんすか一体。」


赤也が興味なさげに答えた。


『しらばっくれるの?テニス部部員さん達』



「悪ふざけもほどほどにしてくれないかな」

『そのことばそのままそっくり返すわ』






くっそムカつく。なんなの、こいつ等。



「証拠もなく俺達だと決め付けないで欲しいものだな」



『ふん、証拠なら、子猫の周りにたくさんのラケットの跡がついてたわよ』




「それがもし準レギュラーのだれかがやったとしたら?」



柳生がクイっ、とメガネを上げる。

私はそれを無視した。

『それはない、つか早く白状してくんない?』




早くしてよ、といったら、切原に胸倉をつかまれた。


「いい加減にしろ名無し」





『・・・・それは此方としてもいえる言葉ね』



「何?」





『離せよワカメ。かわいくない後輩』



最悪の一言をお見舞いしてやった。




そしたら案の定、切原は切れだした。



「少しは反省しろよっ!!」



また、今日も、私の体は宙に飛んで参ります。



何かね、吹っ飛ばされてるときってスローモーションにかんじるんですよ。

痛みすら感じない、ね。


『ゲホ・・・そんなことより、子猫殺したの誰だってんだよ』



やばい、自分のコントロールできなくなってきた・・・・


「だーかーらーしらねぇって」


『・・・・だよ・・・』



「あ?」


『誰だって言ってんだよッ!!!!!』



部室が静まり返る中、私一人、息を取り乱していた。


『ふざけんなよ。しらばっくれてんじゃねぇ。いまでてこねぇん立ったら私が殴りに行くぞ』


テニス部全員の方を向き、声のトーンを下げて言った。
私は一歩一歩、切原に近づいていく。


『・・・・切原、お前、調子こいてんじゃねぇよ』


「・・・・・」


『一緒にテニスやってきた後輩が、そのラケットで、子猫を、何のためらいも無く打ち続けた、』


こんな先輩の気持ちが分かるか?




切原は黙ってしまった。



「先輩が悪いんスよ・・・」




『・・・・』



「先輩が俺達を裏切るから!!!」


切原の目は充血していて。必死さがこれほどかというほど伝わってきた。


『・・・・ねぇ、確かに、私が名無しを殴ったとして、本当にわるいとしても・・・』



切原のマエまで歩き、立ち止まる。




『限度って物があるでしょ』



バキッ!!!、鈍い音が部室内を走った。



私が切原を、殴った。



『切原、お前は何のために生まれてきた?なぁ?今私がここでてめぇをラケットで撃ち殺してもいいんだぜ?っくくくく…』




切原の顔が青ざめた。

他のみんなも、もう何も言わなくなっていた。




『お前が殺したやつはお前より何倍も小さく、何倍ももろい。確かにほうっておけばすぐ死んじまうだろうな。でも・・・』




切原の胸倉を掴み、睨む

『たかが自分の鬱憤を晴らすためだけに関係ないもの巻き込んでんじゃねぇよ!!!』



もう一発、殴る。そして、腹にけりを入れる。




『あの猫はもっと痛かったんだ。あんなこと二度とするんじゃねぇ。』


荷物だけを持って、ドアノブに手をかける。



『おい幸村、私はもう、帰る。オマエラにとって私は邪魔だろうし、一石二鳥じゃねぇか?じゃあな』



その場から去る私の影を見ていたものは、いずれ私に力をくれる人だと気づきもしなかった。

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