十五夜
□5の奇跡
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・・・・今日は黒子の言っていた試合の日。
私は今、体育館の中央に立っている。ゴールを見つめながら。
黒子たちもそろそろ来る。少しずつ、足音が聞こえるから。
「やぁ」
『よぉ、赤司』
来た。バスケ部レギュラーが。
赤司が私に声をかけた。自信満々に。
『・・・・あれから上達したのか?』
「ああ。上達した」
私に勝てるのか同課は知らないが、本人いわく、上達しているらしい。
『なら、はじめようぜ。』
「ああ、そのつもりだ」
私はボールを持ち、なでる。
『さぁ、早くはじめよう。そちらさん用意ができたようだし。』
私たちは、ほかの部活が集めってきている中で、試合を行おうとしていた。
『・・・・ボールはそっちからでいいぜ』
「・・・・・・じゃぁあそうさせてもらうよ」
ボールを赤司に渡そうとした瞬間、
「待ちなさいよっ!!」
昨日の女バス軍団。
「な、にやろうとしているのよ!」
「何って・・・・試合だけど」
赤司もイラついていた。たぶん、試合を中断させられたから。
「赤司君、そいつとバスケしないほうがイイ!女子バスケ部部長として言うわっ!」
「・・・・・なんだって?」
赤司が疑問に問う。あちらの部長さんは息を取り乱していた。
『余計な口出しはやめてもらおうか』
「うるさいっ!後輩の癖に!赤司君!こいつは悪魔よ!」
「何を言うのかと思えば・・・そんなことか?
」
赤司がたえ息をつく。
「君に何を言われようが、試合は実行する。」
「違う!聞いて。彼女のプレイスタイル・・・・並の女子中学生のものじゃない。男子中学生でもない。・・・まるで化け物よ」
「化け、もの?」
『・・・・れ』
「そうよ!あの破壊力、大抵のひとじゃできない。それに―――」
「・・・・・・・・・・・」
「彼女は、相手の五感を奪う。」
「五感・・・・を、奪う・・・?」
「そう、私昨日あいつとワンオンワンをした。私は・・・・あいつに五感を奪われた。いえ、それだけじゃない。彼女は、相手に絶望を与える。積み上げてきたもの全部をひっくり返される。相手を、その場から、一歩も動かさず、プライドをズタズタにする・・・これが彼女のプレイスタイル・・・」
「・・・・」
「だからっ!彼女と戦うと赤司君たちが嫌な目に合うっ!赤司君たちが傷つくわっ!だから――ガァァァアアンッ!!!」
私は、壁に拳を強く叩き付けた。
『俺がさっき黙れって言ったの聞こえなかったようだな、下僕が』
「下僕・・・?なぜ・・・・」
『こいつは昨日俺に負けたからな。クククッ・・・・見物だったぜ?昨日のお前』
ふ、と顔をそむけた。いいねェ、そういうの。火が付く。
『よくもまぁこいつ等の前でぺらぺらとくっちゃばってくれたな。下僕のくせに。』
「くっ・・・・」
『怒りたくてもおこれねぇよな。昨日、公の場で、俺に惨敗したんだからな。証明しようとも、赤司たち以外のここにいる奴らが全員知ってるしよ。』
眼の色が、だんだんと変わっていく。
私の眼の色が変わるのは、本気になった時だけ。
・・・・こんなくだらない奴に切れる私もどうかと思うが、こいつが悪い。
『・・・・てめぇが先輩だからとか関係ねぇ。下剋上だ。すべては実力で試される。だから――』
私は彼女の前に行き、胸倉をつかむ。
『俺はお前を今すぐにでも殺せる』
「ひっ―――」
ドンっ、と彼女を突き離し、体育館から出ていく。
「名無しさんさ――」
『・・・興覚めた。俺はもう帰る。』
一人勝手にすたすたと歩く。
すると、私の腕を強引に黒子がつかんだ。
「駄目です!・・・あなたとは今日、絶対の約束をしました。破ってもらっては困ります」
『・・・俺も、気が変わるうちにお前らとバスケがしたかった』
「え・・・?」
『俺が昨日バスケをあいつに挑んだ理由――それは、バスケをまたやりたくなったから。お前らを見ていると、不思議な感覚に陥る。バスケをやりたいという気持ちがどこからか湧いてくるんだ』
「・・・・・名無しさんさん・・・・」
『でも、俺にはバスケをやる資格などどこにもなかった。そいつと戦って、痛いほど痛感した』
「違う!貴方はバスケをする資格がある!貴方は――」
『うるさいっ!黙れ・・・!お前らのバスケが穢れるくらいなら・・・俺はバスケを捨てる・・・!!』
「名無しさんさっ・・・!」
私は黒子の腕を振りほどき、無我夢中で走っていた。
「黒子っ・・・僕たちも追うぞ」