十五夜

□6の奇跡
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赤司が入ってから30分が立ちそうになった。


「っはぁっ、はっ・・・」


「ックソッ・・・・!!」


彼ら全員が、床に手をついていた。

汗が床に滴り落ち、立つ気力さえ汗といっしょに落ちていく。


可哀想だが、結果も見えた。

『もう、終わりにしないか・・・?』

「何・・・・?」


『正直、つまんない』


彼らの目が見開く。これでもかっ・・・てくらい。


『もう、嫌なんだよ。つまんねぇんだよ。お前らがそんな顔してバスケすんのが、嫌なんだよ・・・!』


「・・・名無しさんさ・・・・」


『俺には、この試合の結果が見えた。否、見えてしまったんだ。』


得点版には76対0の数字が。

言わなくてもわかるように、・・・私が勝っている。


『黒子、赤司、紫原、緑間、青峰・・・それにさつき・・・お前らが、俺のバスケをする輪を作ってくれた。・・・正直な話、とてもうれしかった。
私がどんな言葉を放っても、お前らは、私にバスケの楽しさを取り戻せるようにと努力してくれた、・・・・・本当にうれしかった・・・!』


急に、目じりが熱くなる。
どうしてだろうか。どうして、私の目からしずくがこぼれるのだろう。
どうしてこんなにも胸が熱いのだろう。


『でも、結局は駄目なんだ。俺は、お前らがどんなに努力しても私の居場所はない。もしあったとしても、それは灰と化し、お前らが傷つく・・・・』


「名無しさんさん・・・・!」


『俺はッ・・・・・!!お前らが傷つくバスケだったら、コート上に立たない!もう二度と!ボールに触ったりもしないッ!!』


「名無しさんさん!!」


『俺はッ――』


言葉を発す前に、黒子に抱きしめられた。

身長はあまり変わらないが、体格差がある。

体全体を包み込まれた。

「バスケをするのに、傷つくものはいらないんです。名無しさんさん」


『っ・・・・ぅっ・・・!』

「バスケは、名無しさんさんを化け物とののしるためにあるものじゃない。
名無しさんさんが、傷つくためにあるものじゃない」

黒子が、私を包む腕に力を入れた。


「あなたはもう、解放されていいんです。」


優しく聞こえたその言葉に、溢れる涙の量が増す。

『っく、ろこぉっ・・・!』


「あなたは強い。僕たち全員でかかっても歯が立たなかった。だからまたあなたのことを陰でいう人も増えてくるでしょう。でも、耳を貸してはいけません。
貴方は、周りのこと気にしすぎなんです。
もう少し、自分を大切にしてください」


『っう・・・・ぁっ・・・・』


黒子の腕の中で私は泣きじゃくる。みんなが見ているにも関わらず、黒子に抱かれたまま、泣いてしまった。


「名無しさんさん、あと一回だけ、僕らを信じてください。」


『ぇ・・・・・?』


「あと一回です。僕らを信じて再試合を行ってください」


『・・・・・・分かった。あと、一回・・・』


黒子の腕からはなれ、強引に腕で涙をふき取る。


『・・・俺は、お前らを信じていいのか?』


「ああ」


『まだ、一点も決まってないのに?』


「それは・・・・今からかえすさ」

『お前らが私に勝つためには遅すぎやしないか?』


「遅いも早いも関係ない。貴方を倒すのに時間なんて関係ない」


・・・バスケは時間制のスポーツなんだが。

それを忘れるほど、こいつらは私を諦め切れないようだ。


『・・・・早く位置につけ。今すぐにだ』


「!!」


せっせと思い足を動かし彼らはポジションにつく。


『・・・・チャンスは存分に与えた。・・・最後だぞ』


「あぁ・・・・・わかっているよ。だから・・・」



赤司が私の眼の前までくる。

「僕たちは立ち上がる――そう、何度でも」


赤司の眼がはっきりとしたものに変わる。


あぁ、私もこんな瞳していたんだぁ・・・


『ボールはそっちから・・・』


「ああ。もちろんそのつもりだ」


急にさっきとは違って強気になる赤司。

何か作戦でも思いついたんだろうか。


「いくぜっ!!」


青峰が走り出す。いつみてもこいつのスピードは速い。


だが・・・・


「っ・・・!クソッ・・・!!」


『・・・・さっきと何か変わったのか?』


す、と青峰のボールを奪っていく。

そして、


―シュッ―


「っ・・・スリー・・・」


「いつみても・・・フォームがきれいなのだよ」


一気にスリーを決める。あっけなくボールを取られた青峰は、さっきとは違い、異様な雰囲気を漂わせていた。


「読めたぜ・・・お前の動き」


『ほう・・・』


右目が少しずつ、青峰の雰囲気に誘われ青く変化する。


『さぁっ、読んでみろよッ!』


今まで以上のスピードで青峰を通り過ぎる。


わぁ〜何アレ、男子とバスケしてんの〜?


「うっわ、あの動き化け物見たい!」

『・・・・!』


「わ、ちょ、うちが小声で言ってる意味ないじゃん・・・!」


ゲームを見ていた女子が私のことを化け物とあざ笑う。


【・・・・おねーさん、あんまほかの人に言われたこと耳に入れないほうがいいよ。流されちゃうから】


『え・・・?』

自然に脳内に響く少年の声。

【貴方のことを言うひとも増えてくるでしょう。でも、耳を貸してはいけません。
貴方は周りを気にしすぎなんです】


『周りを・・・気にしすぎ・・・?』


【もう少し、自分を大切にしてください】


【僕らを信じて、再試合を行ってください】


            【僕らを、信じて】


『信じ、る―――』


―キュ、―


足に力を入れ、飛ぶ。


「え―――?」


―ダンっ―


私がダンクを決める。


『青峰、私の動き読めたんだろ?だったら――



     死ぬ気でボールとりに来いよ』


私は自然と、口角があがり、笑っていた。



「!!!!・・・おうっ・・・!」
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