十五夜
□7の奇跡
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「調子こいてすいませんでした・・・調子こいてすいませんでした・・・・・・・。」
『金輪際、俺に同じようなことしたらはっ倒すかんな』
「あら、お口が悪いわよぅ名無しさんちゃん?」
『狙うは、一点のみ』
「おぐぁ!」
光輝の腹にパンチを決める。
端からさつきの顔がちょこんと見える。
さつきは、私にこう問いた。
「・・・・というか、知り合い?」
『こいつなんかしらん』
「ひどいっ!昔光輝ー!って呼んでくれたぁっ!!」
『ハエは死んでろ』
どごっ、とパンチが決まる。
『まぁ、近所だったからな。たまたまだ。仲もそんなによくない。』
「え?でも名前で呼び合うくらいなら仲悪いとは言えないよね?」
『さつき、いいか?こいつはな、見た目だけの男なんだ。口先だけで何もしない。有限不実行だ。』
「え?でもバスケ上手だよ?」
さつきがそう言い放つ。・・・・バスケ?・・・・負けた・・・?
何か引っかかる。・・・・・・。
『・・・・そういえば・・・・』
俺はさつきの話を遮り、光輝のいるほうへ足を送った。
『思い出した。お前、征十郎に負けたんだってな?』
「ちゃちゃちゃちゃうねん!誤解や!」
『なぜに関西弁使ったし。それより、負けたんだな?』
「負けてないッ」
『今のバスケ部の主将は?』
「うっ、せ、征十郎です・・・・」
光輝は項垂れる。
そして、冷や汗をかく。
『この際、征十郎たちがいようがかまわねぇ。お前、ゴールしたに立てや』
「えぇっ?あれやるの!!?」
『負けた罰だ』
「いっ、痛いだろあれはっ」
『大丈夫だ。痛くない』
「俺病み上がりだから!」
『また入院すればいい』
「そういう問題じゃねぇだろ!」
ぎゃーぎゃーと騒ぎあいが始まる。
それを、征十郎たちは黙ってみていた。
「仲いいなぁ・・・」
「お似合いかもしれんな・・・・」
『やめろっ!こいつと俺がお似合いだとっ?!大輝に話しかけるのと同じくらい嫌だっ!』
「だからっ!殺すぞてめぇ!」
「大輝やめろ!お前の命が危ない!!」
必死に光輝が叫ぶ。
『あーもーうるせぇな!!お前はいつまでたってもガキだ!!』
「どこがだよ!だいたいなっ!お前が変わりすぎてんだよ!何?いつの間に自分のこと俺だし?口数少なくなってるし?一匹オオカミだし?なんなんだよお前!完全なる男じゃねぇか!」
『男でかまわん!むしろ光栄だ!!』
「そこだよそこ!お前昔はそんなこと言わなかったろ!口が悪いんだよお前!」
『うるっせぇな黙れ!俺に一回もバスケ勝てなかったくせに!』
「かー!!なんで今バスケの話になんだよ!」
『今バスケの時間だろうが!!大体、あいつらに聞けば予定よりかなり遅れてきたそうだな?先輩の立場としてお前終わってんだろ!』
「そ、それはなにも言い換えせねぇけど!とりあえずお前、・・・・なんでそんな変わっちまったんだ?」
急に、光輝が静かになる。いきなりこういう雰囲気になられると、私も困る。
『・・・・俺は別に何も変わってな――』
「いーや、変わったね。さっきスルーしたけど、スゲー変わった。」
しっかりとした目で私を見据える。でも、その目はどこかさびしげで、不安げだった。
「・・・・ずっとこいつらだって憧れてた。毎日毎日練習後お前の出てる試合のビデオを見てるほどにな。その時のお前は、今と全然違ったはずだ」
『・・・・・っ。』
最早言い返せる言葉も少なくなってくる。
どうしよう?征十郎たちもいるのに。
『・・・・お前、何か勘違いしてるぜ?』
「・・・・何?」
『俺が変わったんじゃない。周りが変わっただけだ』
そう、私は何一つとして変わったことはない。
他人が、変わりすぎてしまったんだ。
『俺は何一つ変わっているものはない。むしろ、幼少期から時間は止まっている。』
「どういう意味?」
『・・・・さぁな。今は教えられねぇ。征十郎たちがいるからなおさら。・・・・じゃな』
ふ、と光輝たちに背を向け部室に向かう。
私が去った後も冷たい空気が流れていたに違いない。
いつものうるささがないのだから。
・・・・・また、面倒事が起こるか・・・。