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□虫退治の代償*
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勉強をし始め1時間ほど経ったときだった。
「っわぁぁあっ!!!」
突然真斗が大きな声をあげた。
それに驚いたレンはケータイに向けていた目線を真斗に向ける。
「どうしたの?」
レンの位置からでは真斗が何に驚いたのかは分からず、声をかけても返答がない。
真斗は勉強机から一歩退き、一点を見つめたまま固まっている。
疑問に感じたレンは真斗の方へと歩み寄り、真斗の肩に手をかけて身を屈めた。
「何があったの?」
「…ぁっ…ぁ…あれ…」
真斗は微かに震えながら見つめる先を指さす。
レンはさされた場所へと目を向ける。
「あ。」
その先、勉強机の目の前の壁に黒光りする虫が触角をピコピコ動かしながらジッとしている。
「結構な大きさだね。」
虫嫌いではないレンにとってその様子は特に異常なことではなく冷静でいられるが、大の虫嫌いな真斗にとっては一大事なのだろう。
未だに一点を見つめたまま震え、レンの胸にしがみついている。
「やれやれ、やっつけて欲しいのかい?」
自分の服を掴む、震える手にそっと自分の手を重ね尋ねると真斗はようやく目線をレンに向けた。
瞳には若干涙を浮かべレンにすがるような眼差しを向ける。
「…神宮寺…助けてくれ…」
弱々しくそう言い、重ねられたレンの手をギュッと握る。
「はいはい、分かったよ。じゃあ、手を離して?」
強く握られた手をはがそうと反対の手で外し、履いていたスリッパを振りかぶる。
「っん!!」
「わぁっ!!逃げたぞ!!」
「逃がさないよ!はぁっ!!」
一瞬逃げたものの、レンの振り下ろしたスリッパは獲物を捕らえ、嫌な音がした。
「ふぅ、柄にもなく本気出しちゃったよ。」
「…す…すまない…神宮寺…ありがとう…」
「大切なお前の頼みだからね。今片付けるからちょっと待ってて。」
「あぁ。」
そう言うとレンは立ち上がり、ティッシュで壁とスリッパをキレイに拭いて片付けた。
「はい、もう大丈夫だよ。」
少し離れた場所に座っていた真斗に歩み寄り、隣に座る。
「あぁ、本当にありがとう。」
真斗は素直に礼を言うも、まだ微かに手が震えていて、レンはそれに気づき自分の胸へと抱き寄せた。
「どういたしまして。ホント、虫のことになると別人のように臆病になるね。」
「…し…仕方がなかろう…嫌なものは嫌なのだから…」
「分かったよ、これからはお兄さんが退治してあげるからいつでも呼んでくれて良いよ?」
「………。」
真斗の髪を撫でながら意地の悪い笑顔で言うと真斗はバツが悪そうに顔を背ける。