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□人魚姫
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むかしむかし、とある海の底。
ここに上半身は人の形、下半身は魚の尻尾を持つ"人魚"という生き物が暮らしていました。
人魚は人の前に姿をめったに現すことはなく、人は伝説の生き物として人魚が存在することを信じていませんでした。
「うむ、さっきの客船、とても立派で良いデザインだったな。」
この人魚、名は真斗といいます。
人魚は深い海の底で暮らしていて、人が暮らす海面の方に上がることはありません。
しかし、好奇心旺盛な真斗はこうしてたびたび仲間の目を盗んで海面に上がり、人の様子を眺めるが好きでした。
「さ、そろそろ戻るか。一十木と四ノ宮が心配しているかもしれんしな。」
真斗は深海に戻ろうとしました。
するとそこに大きな大きな豪華客船が通りました。
「おぉ、実に立派な客船だ。」
感嘆の溜め息をつきつつ眺めていると、船の甲板に人影を見つけました。
どんな人なのかと眺めていて、真斗は一瞬で心を奪われました。
眩しいオレンジの髪に空を思わす水色の瞳、端正な顔立ちに気品溢れる雰囲気、その姿に真斗は息をするのを忘れてしまうほどその人物に目を奪われました。
「………。」
真斗が見つめる視線に気づくことなく、その船は真斗の前を通過し、遠くの海へと進んでいきました。
「…美しい人だったな…」
真斗は去っていく船を眺めながらそう呟きました。
しかし所詮自分は人魚、彼は人間。
許されぬ恋の上、一目見ただけだし相手は自分の存在に気づくこともなく去っていってしまいました。
その事実に自嘲を漏らし、真斗は海へと潜りました。
「マサー!!!どこ行ってたの!!!」
深海へと戻ると仲間の音也と那月が真斗の方へとやってきました。
「すまなかった…」
「みんな心配していたんですよ〜。」
「全く、いつも真面目なのに、たまに抜け出して行っちゃうんだから。」
「心配をかけたな。」
「さぁ、ご飯食べにいきましょ♪」
そう言い3人は食堂へと向かいました。
「そういえば、今日嵐になるらしいね。」
「え?」
「さっきりんちゃんが言ってたよ。」
「色々備えた方が良いですよね。」
仲間の2人の言葉を聞いて、真斗は先ほどの美しい人を乗せた船の姿を思い浮かべました。
「最近海が穏やかだったから、かなり大きいのがくるんじゃないかって…」
「………。」
音也の言葉を聞き、真斗は立ち上がりました。
「マサ、どうしたの?」
「…すまん…少し出てくる…」
それだけ残すと真斗はその場を飛び出していきました。
「あ、マサー!!」
「真斗くん!!…どうしたんでしょう?」
「…さぁ…」
2人は首を傾げながら真斗の立てた泡を眺めていました。