SS1中身
□Star 輪舞曲
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☆★☆★☆
「っはぁ…っはぁ……」
程なくして、人気のない路地裏に入り込むと、少年は肩で息をする少女の手を離して、困ったように頭をかいた。
「あー…。や、いきなり悪かったな。あんな街中で、もし騒ぎになったら困るじゃん?だから、ちょっと焦っちまって…」
「あ、いえ、別に良いんですけど…」
何故こうなった?と思わなくもないが、あがった息を整え、改めて向き直ると、やはり少年は先程モニターに映っていた、桐原アトムその人だった。
――奇妙な沈黙が流れる。ここまで連れてきた張本人も、何も考えていなかったらしい。
「あー!アトムくん、発見!!」
そんな空気を、楽しそうな声が打ち破った。
ハッと声の方を振り返ると、少年が三人、大通りから歩いてくるところだった。
そのうちの一人が、手を大きく振って人懐っこい笑みを浮かべた。
(誰だろ…)
やがて近くに来ると、ベレー帽の少年が小さく息をついてアトムくんを見た。
「アトムくん。気付いたら居ないから捜したんですよ。…それなのに。こんな時間に、女性を連れ回すのは感心しませんね」
「まっさかアトムくんがナンパだなんてね〜?…マネージャーに連絡しちゃお♪」
恨めしげにアトムくんを見据えるベレー帽の少年に、続けて眼鏡をかけたフワフワの緑髪の少年がいたずらっ子のような瞳でスマホを掲げた。
「なっ…。二人とも違げーって!こ、これはその……」
「アトムくん。大丈夫だよ?ちゃんと現場は見てたから。アトムくんをようやく見つけたと思ったら、突然走り出しちゃうのには驚いたけど…騒ぎにならないようにしたんだよね?」
どう説明したものかと口をぱくぱくさせていたアトムくんに、こちらも眼鏡をかけたフワフワの橙色の髪の少年が助け船を出した。
どうやら、その子は先の眼鏡をかけた緑髪の少年と双子のようで、雰囲気こそ正反対だが、見た目や動きが双子特有にそっくりだった。
(……あれ?っていうか、もしかしてこの人たちって)
彼女がそう気付いたと同時に、アトムくんが橙色の髪の少年の手を感激して掴んだ。
「そう…!そうなんだよ、アール!いや〜、さすがオレ様たちマジフォーのリーダーだぜ!」
「えへへ…。そんなことないよ。僕だけじゃなくて、この二人だって見てたし。ね?二人とも?」
橙色の髪の少年がそう問いかけると、ベレー帽の少年と緑髪の少年は至って当然のように爽やかな笑顔を浮かべた。
「えぇ。アトムくんが、ながらスマホをやりながら歩いているところからしっかりと」
「もちろん見てたよ〜?まるで愛の逃避行!みたいに逃げ出すとこもね〜」
「うぐっ……」
二人から鋭い指摘を受け、アトムくんがばつの悪そうな顔になる。
「スタクラのやつらが、アルバム発売おめでとー!って沢山リプ返してくれててさ…。つい、見入っちまって…」
「嬉しい気持ちは分かりますが…。でも、アトムくん。ながらスマホは危ないですから今後はしないで下さいね?」
「…分ーったよ」
ベレー帽の少年に釘を刺され、アトムくんが渋い顔になると、緑髪の少年がパンパンと手を叩いた。
「はいはーい。アトムくんも反省したところで!俺から提案がありまーす♪」
そうして、ハイッと手を挙げると、彼は少女を振り返って眼鏡をずらし、笑みを浮かべた。
「あ、自己紹介がまだだったね。俺は野村エル。で、こっちの可愛〜い男の子が俺の双子のお兄さんのアール。ベレー帽をかぶったいかにも頭良さそ〜なのが藍羽ルイくん」
「頭良さそうだなんて、そんなことありませんよ」
「またまた〜、ルイくんったら謙遜しちゃって〜。…で、アンタを此処まで連れ去って来ちゃった桐原アトムくんも含めて、MARGINAL#4としてアイドル活動してるんだ♪」
困ったように笑うと、ルイくんは小さく肩をすくめた。
「あ。それで?エルの考えた提案っていうのは何?」
「お!よくぞ聞いてくれました!ふっふ〜ん…題して――」