アムネシア(ウキョ主)
□小さな理解者
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青い青い空の中を、小ぶりのボールが飛んでいく。
それは小さな手に捕らえられ、運ばれていく。
「パパ、みて!! やっとキャッチできたよ!」
「わぁ、凄いね〜! さすが、モモカだ」
よしよし、と頭を撫でられ、満足そうに満面の笑みを浮かべると、彼女は身を翻してまた駆けて行く。
「ママ〜! みてた、みてた?モモカ、ボールとれるようになったよ!!」
「うん、ちゃんと見てたよ。凄いね、モモカは」
ふわりと笑った母にぎゅっと抱きつけば、大好きな、花のような甘い香りがモモカを包んだ。
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膝の上で、くーすか眠っている小さな娘の頭を撫でていたシアは、ふと前方に視線を向けて、少し困ったように笑った。
「ねぇ、ウキョウ」
「ん?何、シア?」
彼女らに向けていたカメラを下ろすと、彼はニコニコと笑ってシアの隣に腰掛けた。
家の近くにあるこの公園には、今は他に人が居なくて静かな時間が流れている。
「…また私たちの写真ばかり撮って」
「あ、や、ごめん。あんまりにも君たちが可愛いからつい、ね」
言葉とは裏腹に微笑んでいる彼に、困ったように、けれどどこか嬉しそうにシアは目許を緩めた。
「まったく、もう……、ふふっ」
「はははっ。俺もそろそろ、父親としての、そして君の夫としての自覚を持たなきゃ駄目だね」
照れたように笑う彼の手に、そっと自身のそれを重ね合わせる。
「ウキョウはそのままで居てくれれば良いよ。私も、モモカも、そんな貴方が大好きなんだから」
すると、ウキョウがもう片方の手でシアの手を取り、そっと口づけた。
「……っ。ウキョウ…?」
「……本当に、君はどれだけ俺を惚れさせれば気が済むんだろう。…今でも堪らなく大好きなのに、これ以上好きになったら好き過ぎて死んじゃうかもしれない。…でも、ありがとう。俺も、こんな俺を大好きだって言ってくれる君たちのことが、堪らなく大好きだ」
柔らかく微笑みかけ、額にもひとつ口づけを落とすと、ウキョウはすっくと立ち上がった。
「……さて! もうそろそろ日も暮れて肌寒くなってきたね。帰ろうか」