明治東京恋伽〜めいこい〜

□めいこい学園編〜第一話〜夕暮れの中で
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「…――芽衣」


――誰かが私を呼ぶ声がする。


―――起きなきゃ。そう思うのに、瞼が持ち上がらない。


――これはまさか、何か超次元的力が…?


「…―――あ、あんなところに牛鍋が……!!」

途端、今までのが嘘のように、ふっと視界が開けた。


「牛鍋……っ?!」

顔を上げると、半分呆れたような楽しそうな綺麗な顔が私を見下ろしていた。

「ほんっと、あんたは肉に目がないねぇ…」


「……う…」

我ながら、素直過ぎて恥ずかしい。
けれど好きなものは好きなのだ。どうしょうもない。


「……今の今まで、目が開けられなかったのに…」


自分で自分にげんなりして、ぽそりと呟くと、彼女――いや、「彼」――音二郎は当然だとばかりに、喉の奥でクククと笑った。


「そりゃ、そうだろうねぇ。アンタ、今日は大して寝てないって朝言ってたじゃないか。…牛鍋で起きただけ上出来さ」


(……あ、確かに)

昨日の夜は、今度の授業で使う資料を集めていて、遅くなってしまったのだった。

ようやく思い出した私の様子に、愉快そうに笑うと、音二郎はひらりと手をあげて教室のドアを指し示した。

「ほぅら、とっとと行くよ!」
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