明治東京恋伽〜めいこい〜
□甘いもの
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カンカンと照りつける陽射しの下。
どこかレトロな街並みの中は、暑さ故かいつもよりも人影はまばらだった。
(……暑い…)
額に浮かぶ汗を拭うと、芽衣は涼しげな顔をして隣を歩く人影をちらりと見た。
首には柔らかそうな襟巻きを巻き、和服だからこその重ね着をし。……どう考えても暑いだろう服装を平然と着こなしている彼。
「……あの、春草さん」
「なに」
「……その服装、暑くないんですか…?」
思わず聞きたくもなってしまうというものだ。
その問いかけに、彼は無表情のまま首を傾げた。
「…暑いに決まってるだろ」
実に簡潔な答え。
「これで暑くないなんて、人間じゃない。…どうしてそんな当たり前のこと聞くの」
「いえ、その…。春草さん、涼しい顔をしてらっしゃるので、つい…」
――むしろ、そう思うのが普通ではないのか。それくらい、汗ひとつかかず涼しい顔をしていたから。
私が弁明すると、彼はふーんと返し、私の顔をじっと見つめた。
(な、何……?)
何かついているのだろうかと顔を触るが、何もついてはいなさそうだ。
「……あの…?」
「あいすくりんが食べたいの?」
「…………は?」
「そう顔に書いてあるけど」
彼はそう言うなり、呆然とする私には構わず、近くにあった薬局に入って行き、透明な容器に入った真っ白な雪のような――あいすくりんを買って戻ってきた。
「ほら。これが食べたかったんだろ」
「…………ありがとうございます」
――どうも私は、春草さんの中では「食いしん坊な女」というレッテルが貼られているらしく、顔を見ればいつも食べ物を求めているように見えるらしい。……女としては、かなり複雑だ。
とにもかくにも、有り難くあいすくりん――現代で言うアイスクリームを受け取り、歩きながら食べ始める。
我ながら、お行儀が悪いとは思うけど、近くに座る所もなく、アイスクリームも容器の中で刻一刻と溶けていくのだから仕方あるまい。
「美味しい?」
「はい!甘くて冷たくて美味しいです」
――いつからだろう。食べる私を春草さんが優しい目で見るようになったのは。
彼は私の返答に、そう。と返すと、突然路地を曲がった。
「……え?! あの、春草さん?」
腕を掴まれ、為す術もなく私も連れて行かれる。
「ちょ、あの、春草さん……?!」