明治東京恋伽〜めいこい〜
□ぬくもり
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コンコン
――深い眠りに沈んでいた私は、その音で目を覚ました。
(……ん…。まだ眠い…)
ゆっくりと身体を起こすと同時に、呆れ顔の人影がドアを開けて入ってきた。
「――君、また寝坊? 鴎外さんはもう行って…」
そこまで言うと、彼は軽く眉間に皺を寄せた。
「……どうしたの?いつもより、顔赤いみたいだけど」
「……へ…?」
ボゥッとした頭で小首を傾げる。
――私の顔が赤い…?なんでだろう…?
春草さんは、ずかずかと私の側まで歩いてくると、膝を折って私の額に手を乗せた。
冷たい手のひら。
どうしてだろうと考える間もなく、やがて彼は深くため息をつくと、すっと手を離した。
「――すごい熱」
「……ねつ…?」
言葉を繰り返した私に、春草さんは軽く顎を引いた。
「道理で、いつもより反応鈍いと思った。…ほら、横になって。今、フミさん呼んでく――」
両肩を掴んでゆっくり寝かせると、立ち上がりかけた春草さんは言葉を途切らせた。
「……?春草さん、どうしたんですか…?」
立ち上がった状態のまま返事がなかった春草さんだったが、しばらくしてようやく我に返ったように首を振った。
「……いや、なんでもない」
「……?」
「良いから、君は寝てること。無理して動かれても、迷惑だし」
そう言い残すと、さっさと春草さんは部屋を出て行った。
(……何だったのかなぁ…?)
――にしても。まさか私が風邪をひいてしまうとは…。
(……役に立つどころか、迷惑かけてばかりだ、私……)
すでに見慣れた天井を見上げながら、深々とため息をつく。
――とはいえ、ここで哀しみに浸っていてもどうにもならない。
(――ここに居られる残りの時間は、これまで迷惑かけた分も役に立たなくちゃ)
その為には、まず、この熱を下げることが重要だ。
(……ぼんやりする…。身体も何だかだるいし……)
春草さんの言う通り、私は熱があるのだろう。
(…きっとフミさんが何か冷やすもの持ってきてくれるはずだから、まずお礼を言って――それから…………)