SS1中身
□卒業式シーズン
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「3年生、退場。拍手でお送り下さい」
〜♪〜〜♪♪〜♪〜〜〜♪〜
「…ん?アトムくん、どうしたんですか」
ふっと何気なく隣を見ると、アトムくんがうつむいていた。拍手の手もだいぶ弱々しい。
「……もしかして泣いてるんですか?」
「べ、別に泣いてね〜よ…!」
「なら良いんですが。…ま、この雰囲気じゃ、飲み込まれても無理はないですね」
校歌や蛍の光の斉唱が終わり、卒業生の半分近くは泣いていた。そうして在校生でも、先輩との別れを惜しむ涙や、もらい泣きをする生徒など、体育館は愛惜に包まれていた。
「なになに〜?アトムくん、泣いてんの?」
前に座っていたエルくんが振り向く。しかし、その瞳もやはり少し涙で濡れていた。
「エ、エル〜…。からかっちゃ…ひっく、駄目だよ…?」
涙で顔をぐしゃぐしゃにしながらも止めたアールくんに苦笑すると、エルくんはよしよしとその頭を撫でた。
「分かってるよ。だって、そういう俺だってちょっと泣いちゃったしね」
(……本当に、こうして二人を見ていると、どちらが兄なのか分からなくなりますね)
「…うん?ルイくん、そんなに俺たちをジッと見て、どうかした?」
「いえ。何でもありません。…あぁ、ほら、二クラス目が退場するようです。次は僕たちの横を通るんですから、きちんと拍手をしてさしあげないと」
「は〜い。あ、コウジン泣いてる」
エルくんの言葉に、今まさに退場しようと立ち上がったクラスの前で、担任の柳葉 浩二先生が泣いているのが見えた。
「ふふっ。本当ですね。柳葉先生は――」
『先生!今までありがとうございました!!』
「おぉ。見事な一体感。クラス全員が合図もなしに揃うなんて…」
立ち上がったクラス全員が声を合わせて頭を下げた様子に、落ち着きつつあった会場の空気がまた高ぶった。
「……柳葉先生は本当に生徒たちに慕われているんですね」
「…うん、まあね。柳葉先生は、親身になって考えてくれる良い人だから」
「良いですね。…あんな、仲の良いクラス」
ルイくんの顔を覗き込むと、彼の瞳は優しく細められていた。
「く〜…っ。青春マンガの最終回かよ、ってくらい感動するぜ……」
「ほ、ほんとだね……ぐすっ。なんだか、すごく良い話を見ちゃった…」
「僕たちも、来年こうして感動を与えられる存在になりたいですね」