SS1中身

□Star 輪舞曲
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「オゥ…、オーマイゴッド…なんて事でしょうか…」


彼は大げさに嘆いてみせると、依然立ち尽くす彼女の手をとった。


「娘サン…。本当に、今日が何の日かお分かりになられませんか?」

「え…。えっと……」


趣味という訳ではないから勘違いなんだけど――と思いつつ、何かあったかな…と頭をフル回転させる。
――すると、思い当たる節がひとつあった。


「……あ…!もしかして、今日から始まる、いろはの牛鍋フェアの事ですか?それなら、次の休日に行こうと…」

「ノー!娘サン、牛鍋の事ではありません。もっとほら、身近な…」


彼が、身振り手振りを使って何かをアピールしているようだ。が、彼女には何のことだかさっぱり分からなかった。


「……?」

「…おい、小泉」

「何ですか、藤田サン。今、私は娘サンに大事な事を伝えようとしているのです。邪魔しないで頂きた――え?」


八雲先生の動きが一瞬止まった。
が、すぐに笑顔を取り戻して彼の背後に立った人影を振り返った。


「おや、これはこれは藤田サンではありませんか!いやはや見回りですか?いつもご苦労様です」


今の時代にしては少し珍しい、長い髪を無造作に風になびかせて警察服を着た男は、眉間に皺を寄せた怖い顔のまま、フンとその反応を鼻で笑った。


「お前のせいでな」

「おや。私のせいですか?」

「とぼけても無駄だ。住居侵入罪で逮捕する」


ガチャン


「オゥ!藤田サン、罪なき善良な一市民を逮捕するなど、警察の風上にも置けない極悪非道な行為だと分からないのですか?!」

「黙れ。誰が善良な一市民だ。そんな者をわざわざこの俺が出向いて捕らえるなどするわけがないだろう。大人しくついてこい」

「ただ私は、藤田サンという名の親友の家に行って、留守だったのであの侘しい庭からお邪魔して、お茶を頂いてきただけです!藤田サンに逮捕される筋合いなどありません!」

「俺はお前を招いた覚えも、もてなした覚えもない。そして、お前のそれを日本では住居侵入罪というんだ。いいからとっとと来い!」


ズルズルと引きずられながらも、抵抗して喚く八雲先生。こちらこそ、教師の風上にも置けないのではないだろうか…。


(……あ。さっき八雲先生が話してたことってもしかして――)


ドンっ。


「あ!悪りぃ…っ」

「…あ、いえ、こちらこそ――」


ぎゃいぎゃいお馴染みの光景をボゥッと眺めて突っ立っていたら、通行人にぶつかってしまったようだ。

幸い、声は酔っ払いではなく同い年くらいの少年の声のようで、慌てて身体の向きを変え頭を下げた。

そうして顔を上げて少年の顔を目にして――。


「―……あれっ?」


頭上の大モニターと少年の顔を見比べる。
すると、少年も頭にあったはずの帽子が地面に落ちているのに気づいてから、少女の視線を追って頭上を見て……


「あ。ヤベ…」

「あの、もしかしてMG#4の桐は…」


少女がそう声を出すと、近くを歩く人々の視線が次々集まってくるのを感じた。と、少年の顔が苦笑いを刻んだ。


「ちょ、悪りぃ!」

「へ…?!」


そうして表情をマズイものに切り替えると、少年は少女の腕を掴み、そのまま何処かへと走り出した。
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