書評・熱闘篇

□『「三国志」軍師34選』
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三国志の人物について、軍師を中心に記した本、と言いたいところだが、この本は、実は当時“軍師”と呼ばれる人物は名士であり、その名士が政権の運営にどのように関わっていったかを三国志の人物に照らし合わせて書いたのではないかと思う、多分。
 まず、軍師について考えてみよう。三国志演義(正史ではない)の諸葛亮のように(個人的には郭嘉が好きだけど)、これから起こり得るであろうことを色々と予言したり、神がかり的な戦の指揮をするのが軍師のイメージかもしれないが、冷静に考えれば実際の所そんな人間はいないわけで、そのような人物は実際のところは朝廷内の政治家だったり、官僚だったり、あるいは外交官に位置するものである。そういう文官を“名士”と定義している。
では次に名士について考えてみたい。名士とは一体なんであろうか。名士という言葉は今でもたまに使われるが、『地元の名士』と言えば地域の有力者であり、祭礼を主導し、揉め事があったら仲裁し、議員になれば(良い意味でも悪い意味でも)地元に利益を誘導し…などということを行っていると思う。極端に割り切って話してしまえば、名士というものは昔も今もそんなに変わりはないのである。三国志の時代では、そのような名士が自らの郷里の他の名士を推薦し、政権内でひとつの閥をつくっていく。君主からしたら、有能な人材を推薦してくれる名士は『頼れる部下』であり、人材に苦しむことはない。しかし、名士の閥の協力なくしては君主はやっていけなくなったり、呉のように複数の有力な閥の連合政権みたいな感じだと君主の意見がうまく伝わらなかったりと、一方で中々専制化ができない。また蜀のように、後半になると推薦システムが機能しなくなり、人材不足になったりもします。
 最終的には名士の司馬懿が政権を簒奪し、司馬一族が晋を建国し、名士は貴族への道を歩みます。司馬懿が政権を簒奪できたのは、名士たちが司馬懿に協力したからに他ありません。

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