書評・熱闘篇

□『平将門の乱』
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 日本の国内外で起こった戦争を通して日本史を見ようとする(んだと思う)シリーズ。ランダムに読めて面白いです。今回は平将門の乱についてです。
 平将門というと、“将門は新皇と名乗り、関東に独立国を築こうとした”などと言われ、荒俣宏の『帝都物語』や、その他の“関東怪しいモノ系(笑)”にはほぼ必ずお出ましになる有名人である。この平将門が起こした天慶の乱について、『将門記』を中心に丁寧に読み直し、リアルに肉付けを行い、幾つかの新たな視点を付け加えている。それをここで何点か挙げてみたい。
 ひとつは菅原道真との関係である。道真は将門と並んでの“怨霊仲間(笑)”である。将門が新皇に即位するとき、唐突に道真の霊魂が登場し、将門の新皇即位を後押しする。『道真は朝廷に不満を持つ怨霊だから』といってしまえばそれまでだが、両者には接点はなく、考えてみればおかしな話である。この例について、筆者は道真の息子たちが東国の国司に任命されている事を挙げ、この事が菅原道真登場の原因の一つになっているのではないかと推測している。
 次に挙げるのは武士という職能の誕生について考察である。武士の誕生についてはそれだけで何冊も本が出来てしまう位、日本史では重要なテーマであるが、この本の中では天慶の乱が一つの要因になっているのではないかと論じている。中世において武士の名乗りは自らの出自・由来をアピールする重要なものであったが、その中で天慶の乱を鎮圧した祖先をもつことは極めて意味のあることであり、また天慶の乱を鎮圧した家系について異能視することにより武士が発生したというのである。
 最後に天慶の乱の性質について挙げたい。天慶の乱を将門側からのみ見てしまうと“関東独立国”と安易に考えてしまうが、新皇即位後の記述を見ても、源頼朝の鎌倉幕府のような朝廷の枠を飛び越えた(若しくは利用した)武士による政治機構を用意していたとは考えにくい。あくまで朝廷の、それも旧スタイルの律令政治の模倣に過ぎない。律令国家における当時の地方は院宮王臣家の進出により、徴税システムの立て直しの必要を迫られていた。その中で現れたのが受領国司である。受領国司に徴税権限を集め、支配力を強化しようとしたのである。この場合、受領国司と寄進地系荘園をもつ院宮王臣家は対立軸になるのは明白だろう。では平将門はどちら側かというと、将門は摂関家の藤原忠平の家司の一人であり、明らかに院宮王臣家側である。地方において旧勢力である院宮王臣家に連なる人間と、新興勢力の受領国司の対立は何処でも見られ、天慶の乱もそのひとつと見ることが出来るのではないかというのだ。

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