薄桜鬼(短夢)

□日蔭の慕情
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心と体は別のものなんだよ。
男は好いている女でなくても抱ける。
愛情と性欲は別なんだろうな。

誰かがそんなことを言っていた。
だから島原や吉原と言った華町に行くんだと。
まさに女の体を求めて。

誰が言ったんだっけ・・・・・。

そんな言葉がふと頭をよぎったのは空に朝の気配が見え始めた頃。
昨日の情交の名残が体を支配していて、腰に感じる鈍い痛みと喉の渇き、秘部の泥濘に顔をしかめた。
いつの間にか眠っていたらしい。
途中から記憶がないのだから、気絶と言った方が正しいのかもしれない。
脱がされたはずの寝巻を身につけているから、彼が着せてくれたのだろう。

目が覚めた私がいるのはいつも独りの部屋だ。
眠る前にあったはずのぬくもりは忽然と消え失せていて、まるで夢だったのではないかと思う程。
でも、情交の名残と彼の残り香に夢ではないと思い知らされるのだ。

けだるい体を頑張って起こすと、秘部からこぽりと体液が流れ落ちた。
私のものなのか、彼のものなのか分からないそれは少し冷たくて生ぬるい・・・・。
ぬくもりの無いそれは、まるで私に彼の気持ちを突き付けるよう。

「分かってる・・・・・。」

誰に言うでもなく、自分に言い聞かせるようにそう呟いた言葉は今にも泣き出しそうな程震えていて、どこか痛々しかった。

分かっている。ちゃんと分かっているんだ。
想われていないことも、私の想いが届くことがないことも。
もう、こんな関係終わりにした方が良いことも。
頭ではちゃんと分かってるんだ。

部屋に来ても、入れなければいい。
求められてもはっきりと言ってやればいい。
そんな簡単な女じゃない。
物わかりの良い、都合の良い女じゃない。
もう顔を見せないで欲しい。
ここにはもう来ないで欲しい。
そうやって言ってやればいいのだ。

頭ではわかってる。
理解している。
どうすればいいのか、方法も分かっている。

でも、心が言うことを聞いてくれない。
理解してくれない。
ただただ痛む。

もっと側にいたいと思う。
顔を見れれば嬉しくなる。
肌を合わせれば心が震える。

触れ合えば、触れ合うほどに
この想いは大きくなってゆく。
際限なく膨らむ想いにいつか押しつぶされてしまうんじゃないだろうか。
いつか息が出来なくなって、身動きが取れなくなって・・・・


「      」

届くはずのない想いを吐き出すように、彼の名前をそっと呼べば心の傷は深くなってゆく。

その傷から血が流れ出るように、頬を一筋の雫が伝う。

そっと掛け布団を手繰り寄せれば、ふわっと彼の移り香がした。



 

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