薄桜鬼(短夢)
□疾風を追って
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大好きなあなたの背中を追いかけて、ここまで走って来たんです。
前を走ってくれていたあなたは、今どこにいるのでしょうか・・・・。
桜の花に酷似したあなたの生きざま。
私はそんなあなたの背中を見ているのが大好きでした。
美しいのに、どこか刹那的で、散りゆくと知りながらも、このままずっと見ていたいと願ってしまうような
「生き急ぎましたね」
返事が無いことを知りながら、私はあなたに宛てて言葉を紡ぐ。
届いていることを願って。
「今日は、良いお天気ですよ。だんだん暖かくなるんですね。」
持ってきた花を切りそろえながら、私は言葉をかける。
「桜も散ってしまいました。少し残念です。桜、大好きですから。」
汲んできた水で、苔を落とす。
「ねぇ、どうしてそんなに急いで行ってしまったんですか?そんなに急ぐ必要も無かったでしょう?」
手ぬぐいを持つ手に力がこもる。
掌に爪が食いこんで、爪痕が残る。
「まぁ、あなたが立ち止まることを知らないってことくらい・・・・・・ちゃんと分かっていたんですけどね・・・・・・」
本当に馬鹿な人。
「ちゃんと聞いているんですか?歳三さん・・・・。」
そっとあなたの眠る空っぽの墓石に触れると、ひんやりとした冷たさが手に伝わる。
何も残さずに私の前から消えてしまったあなた
「本当に髪の毛一本残さないのね」
綺麗なあなたの、儚い最後。
「では、また逢いに来ますね」
一言残して立ち去ろうとした私を春の風が包み込む。
それはまるであの人のように急ぎ早に私のもとを離れて行った。
私はあなたの背中を追いかけてここまで来ました。
でも、あなたはとても速足で・・・・・
今生では追いつくことが出来無かった。
私をおいて、さっさと彼岸へ渡ってしまったんですね。
でも、私は必ず追いつきます。
だから、少しそちらで待っていて下さい。
今生を終えたら、今度はあなたの横顔を見せて下さいね。
もう、あなたの背中は見飽きてしまったから
〜完〜