スタスカ(短夢)

□空色の傘に乗せて
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春先に降る雨は冷たい。

冬に逆戻りしてしまったんではないだろうか?なんて思ってしまうほどに指先、太もも、頬に鼻・・・・・
冷えて少し痛いくらいだ。

それでもコートなんてはおらずに、パーカーだけで出かける私は、馬鹿なのかもしれない。

あの人がいたら、もう一枚着なさい!なんて少し呆れたような顔で言うんだろうな・・・・・・。

暦の上では春。
雛祭りも終わったこの季節は梅の花も咲いている。

桜はまだまだ先なんだろうな〜なんて思いながら、空色の傘をさして歩く。

駅までの道のりをバスを使わずに歩くのは、人がいっぱいいる空間が好きではないから。
自分のペースで移動出来ないから。
待っている時間が苦手だから。

『人嫌いだもんな〜』なんて言うあの人の呆れたような声が聞こえる気がする。

優しそうで柔らかな、楽しそうな声色

(逢いたいなぁ〜)

そんなことを想いながら、灰色の空と対照的な空色を見る。

くるり

手の中におさまっている傘の柄をまわすと、頭の上の空色もまわった。

傘についた水滴が周囲に飛ぶ。

小学生に戻ったような感覚が面白くて、もう一度クルリとまわした。

『こら、やめなさい』

彼の声を思い出す。

去年の11月。
それ以来逢っていない。

私のお休みに合わせて、仕事の休みを取って逢いに来てくれた。

(無理をさせちゃったかな・・・・)

無理をして逢いに来てくれているのを知っているから、もっと逢いたいなんて言えない。

彼は無理なんてしてないよ なんて言うんだろうけど・・・。


(今日は仕事?)
(そっちのお天気はどうですか?)

朝から電話なんて贅沢な時間は過ごせないから、心の中で問いかけてみる。

届くはずないし、答えなんて返ってこない。

そんなことわかってるけど、実は届いてて、今日の夜は彼から電話来るかも!
なんてそんな都合のいい妄想してしまうなんて、私だけの秘密。

(次は私から逢いに行ってみようかな〜)

今まで一度も行ったことのない場所
彼のいる場所

いつも逢いに来てくれる私のナイトに今度は姫から逢いに行こう

私の頭の上の空色がふわりと揺れた。

〜完〜
 

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