夢・短

□幸せは身近に
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甘えるわけでもなく、わがままを言うわけでもない。
仕事で忙しい俺のことを理解しているのか、我慢しているのか。

とにかく普段から何も言わない彼女

仕事優先になりがちな俺に、文句を言ったことが無い。

仕事と私どっちが大切なの!?
なんて聞かれても、答えようがないから、聞かれても困るんだけど、ここまで何も言われないと逆に不安になるものらしい。

いつか愛想を尽かされるんじゃないか。
俺のもとを離れていくんじゃないか。

そんな不安に駆られる瞬間がまれにあるのだ。

今がそんな時らしい。
さみしい想いをさせているはずの俺でも、してやれることはしてやりたい。
この際、仕事休んで時間を作ろうか。

そんな想いを込めて、一つの質問を投げかけた。

お前は何をしてるときに一番幸せを感じる?

何かして欲しいことはないか?
そう聞くことが出来ないのは、特にないよって答えが返ってくるのが分かっているから。
いつも俺を気遣って、何も言わないから。
それにどうせ無理だと思われたくない。
無駄に意地っ張りな俺らしい聞き方だと思う。

そんな想いを胸に、彼女の方に視線を投げると
読書中の彼女の視線が活字から俺に移った。

いきなりどうしたの?
そんな言葉が飛び出してきそうな表情を浮かべたと思ったら、ふわっと気の抜けたような笑顔に変わる。

俺の目を真っ直ぐに見据えながら、ゆっくりと言葉を吐き出した。


まだ読んだことない本に囲まれている空間。

読んだことない本を目の前に積み上げて、時間を気にすることなく活字を追いかける。

お揃いの大きなマグカップに紅茶を入れて、大きなくまのぬいぐるみにもたれかかる。
膝にはあなたが買ってくれた膝かけ。

自分の世界に入り込んで、本の世界に落ちてゆく高揚感。

ふと集中を解いて、視線をあげた先に、あなたが見えたら

その瞬間が最高に幸せ

そういって笑った彼女はまた視線を手元に落とし、活字の作りだす世界に入って行った。

〜完〜
 

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