夢・短

□選択の代償
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昔から、嫌ってくらい真っ直ぐなところがある子だとは思っていた。
瞳の奥にちらつく意思とか、歳の割にしっかりとした考え方だったりとか。
仕事に対する姿勢や、心構えなんかも相当なものだと思う。

考え方が堅いわけじゃない。
優等生タイプとは程遠い。

そう、言うなら 心意気が真っ直ぐ なんだ。

自分の中に一本真っ直ぐなものを持っていて、それに沿って真っ直ぐに進んでいく。

そんな子だ。

自分のことは自分で決める。
誰かに相談なんてせずに、進んでゆく。
自分が前だと信じた道を進んでゆく。

俺はそれに置いて行かれないように足を動かすことに必死で、いつも彼女の背中を追いかける。
少しでも休んだら置いて行かれそうで、見えなくなってしまいそうで
それがたまらなく怖いんだ。

『・・・・・・・どうしたの?』

さっきまで俺の隣で本を読んでいた君がそう呟く。

「どうすればいいのかがわからないんだ・・・・。何を選びとれば一番なのか。」

俺はそっと胸の内をさらす。
格好悪いかもしれないとか、男が情けないかもしれないとか
いろいろ考えるけど、やっぱり聞いて欲しくて。
結局話してしまうなら、端っからそうしてしまえ と最近では言い淀むことも無くなった。

『何を選べば?』
読んでいた本から目を離すことなく、そう聞き返す彼女。
そんな仕草が俺は少し好きだったりもする。

「そう。何かを選べば、もう一方をあきらめなきゃいけない。それがたまらなく怖いんだ。」

そういって彼女の横顔を見やれば、口元にうっすらと笑みが浮かんだ。

『そりゃそうでしょ。選び取るんだから。選ぶものの価値が大きければ大きいほど、諦めるもの、捨てるのもの価値も大きくなる。何回でも天秤にかけて、その度にそれを選ぶ。そうやって進んでいくものなんだと思うよ。』

パタン

彼女の手元にあった本が小さな音をたてて閉じられた。

それを合図にゆっくりと彼女の視線が俺を捕えると、また彼女は言葉を漏らす。

『どれを選びとるのが一番かなんて答えは存在しないよ。正解なんてずいぶん後から分かるもの。
私は自分が死ぬときに、あれは間違っていなかったって、選択してきたものの中で1つでも思えればいい。』

そう言ってふわりと笑った彼女の笑顔はとても優しくて、やっぱり強い子だと思った。

その芯の強さを示すように、ひと吹き 力強い風が彼女の髪を弄ぶ。

そんな風なんかに惑わされないとでも言うように、彼女の口元に浮かんだ笑みは、僕の心臓をドクンと高鳴らせた。

〜完〜
 

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