夢・短

□恋愛の終止符
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「こういう時、なんて言ったらいいのか分からないんだけど・・・・」

付き合ってからかなりの年月が経つのに、初めて見るような顔をしながら彼がポツリと言葉をこぼす。

眉間に皺を寄せて、今にも泣いてしまいそうな顔をして・・・。


「俺・・・・・他に・・・・・・好きな子が出来たんだ・・・・・」

つっかえながら、それでもやけにはっきりと告げられた言葉の意味が私には理解できなかった。


彼と付き合いだしてもう4年になる。

大学の同期として出会った私と彼が、友達から恋人になるのにそう違和感を感じなかった。

恋人と言うよりも、家族のような濃い繋がり。

就職して、遠距離恋愛と呼ばれる状態になってもそれは変わらなかった。


笑った顔、むっとした顔、泣き顔
全部全部知っていたはずだったのに・・・・・・

今目の前にいる彼の顔は初めて見た。

「ごめん・・・・・・・。嫌いになったとかじゃなくて・・・・・・。」

優柔不断で、優しくて、誠実で・・・・
自分の気持ちよりも、相手の気持ちを考えて話す。

そんな彼が私に告げた。

それだけでもう答えは見えてしまった。


グラグラと揺れる足にしっかりと力を込めて・・・・・
胸元までせり上がってきた寂寥感を抑え込んで・・・・・
口を開けば零れてしまいそうな恨みごとを呑みこんで・・・・・


そうしていないと立ってすらいられない私がやっと口にした言葉は、何とも情けないものだった。

「そっか・・・・・」

こんな短い一言に込めた想いは伝わったんだろうか・・・・・

別れたくない・・・・・
大好き・・・・・・
苦しい・・・・・・

すがって泣いてしまいたい想いと、最後くらいはかっこよく終わらせたい想い

口汚く責め立ててしまいたい想いと、それを大きく上回る愛おしさ

無理やりひきだした笑顔はやっぱり引きつっていて、不格好な顔になった。

「ごめん・・・・・・・・。俺・・・・・・・・・」

引き金は私の一言だったのか、この不格好な笑顔もどきだったのか。

私の顔見た彼の目から涙が零れ落ちた。

ポロポロと零れ落ちる彼の涙。

「泣き虫・・・・・」

私よりもよく泣く人だった。

「なんでこの状況であなたが泣くのよ。本当にどうしようもない人・・・・・。」

意地でも泣くものかと奥歯を噛みしめながら、彼に背を向けた。

「好きだったから!!!!!」

背後から、彼の声がする。
やっぱりその声にも嗚咽が混じっていて・・・・・・。

私は泣けなかった。
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