アムネシア(短夢)
□金木犀
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目の前で楽しそうにおしゃべりに興じる男女
とても仲がよさそうに寄り添っている。
羨ましい
その想いと同時に、私の心はキシキシと軋みはじめる。
何か得体のしれないものが私の心を締め上げていくような感覚
名前も知らない彼らの姿を直視できなくて、私は急いで目をそらした。
・・・・・・痛い・・・・・・
どうしてこんなに痛いんだろう
考えれば考えるほどに痛みは増してゆく。
少し前までは私もあんな風に笑っていたんだ。
彼の隣で
いつか終わりが来ると分かっていたけれど、“今”が眩しすぎて私は目をそらし
ていた。
違う・・・・。きっと自惚れていたんだ。
彼に愛されていると思っていた。
期限が過ぎても、きっとこのままでいられるって
彼の声、彼の温度、彼の言葉
そこには確かな気持ちが存在していると思っていた。
彼の瞳には確かに私が映っていた。
そう信じて疑わなかった。