アムネシア(短夢)

□届かない想い
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シトシトと静かに落ちる雫。

そんな雫に視線を囚われる。

シトシト

周りの音が少し遠くなったような感覚に包まれて、ただただ静かに空を見上げる。

(このまま消えてしまえればいいのに・・・・)

そんな想いがふと頭をよぎった。

このまま静かに、誰もいない世界に迷い込んでしまえれば・・・・

指の先から溶けていけばいい。
私を形作る肉体も、誰かをうらやむこの心も
全部全部溶けてなくなればいい

そうすればこの気持ちも無かったことに出来るのではないか


「あれ?今帰り?こんなところでどうしたの?」

そんな声が隣から聞こえてきて、ビクリと肩がはねた。

『・・・・・・あぁ・・・・トーマ君・・・・・。』

声の主を確認するように名前を口にする。
それと同時に心臓がキュゥっと痛くなった。

「お前も早く帰んなさいよ。風邪ひいちゃうから」

私の顔を見て、そう優しく声をかけてくれる。

『うん・・・。ありがとう。』

苦しくて痛い胸を抑え込むようにそう答えると、人当たりの良い笑顔が返ってくる。

「じゃぁ、また明日な。」

爽やかにそう言って歩き出した彼の背中に視線を投げる。

『バイバイ・・・・・・』

最後につぶやいたその言葉は何とも弱弱しくて、
今にも消えてしまいそうに震えていた。


あぁ・・・・・気がつかなければよかった。
伝えることも出来ない想いはどこに行くのだろうか・・・・・。

喉元まで出かかったたった2文字の言葉。

その気持ちが零れるように、一筋の雨粒が頬を伝った。

〜完〜

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