夢・短
□運命の人
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『とりあえず移動しよう。ここじゃ邪魔になる。ご飯でも?』
あの時と変わっていない心地良い声に促されるように、私たちはレストランへ移動した。
静かな音楽をバックミュージックに、ほんのり薄暗い店内。
暖色で統一された店内は妙に落ち着いた雰囲気だ。
「久しぶり」
席に案内されてすぐに訪れた沈黙を打ち破るように、私はありきたりな言葉を口にした。
『そうだね。元気にしてた?・・・・・・・・って俺が聞くのは卑怯かな・・・・?』
私の一言に少し安心したような声を漏らす目の前の彼。
どうやらあっちも緊張していたようだ。
柄にもない。
「そうだね。知ってる癖に。」
『もう体調は平気?これでも気になっていたんだよ。』
目の前に出されたサラダをつつきながら、お互いに相手の出方を探る。
こんな駆け引きが出来るくらい、私も成長したと言うことか。
ちらりと視線を投げれば、いつから見ていたのだろうか。
彼とパチリと視線が重なった。
その瞬間、彼は細い目をさらに細めて私を見やる。
まるで眩しいものでも見ているかのように。
そう・・・・・。
この表情が好きだった。
普段は鋭い視線が少し和らいで・・・・・愛しむ様な目で見つめられる瞬間
それが何よりも好きだったんだ。
「そう?さすがにもう平気だよ。ずいぶん昔のことだもん。」
口にほおりこんだトマトの酸味に顔をしかめつつ、私は口にする。