アムネシア(短夢)
□金木犀
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「楽しかったよ。ありがとう。」
そう言われた時
私はやっと現実を受け止めた。
ううん・・・・受け止めなければならなくなったと言った方が正しいのかな・・・・。
彼の声はいつもと変わらなくて
好きだよって言ってくれたあの声で、私にさよならを告げたんだ。
大好きだったあの声で
(初めから、あなたの心には私はいなかったんだね)
確かに瞳には映っていた。
でも心には存在していなかった。
“私”としてではなく、“期間限定の彼女”としてしか・・・・・。
彼の背中が遠ざかっていくのをただただ見ていることしか出来なかった。
呼びとめることも出来なくて
すがりつくことも出来なくて
秋の風が運んできた金木犀の香り
それが私に泣くなと言っているかのようで、私は涙ひとつ浮かべることも出来な
かった。
ズキズキと胸は痛んでいたのに
目頭が熱くなっていたのに
痛くて痛くて、呼吸さえ苦痛だったのに
そんな私に背を向けた彼は、どんな気持ちだったんだろうか。