小説

□焔ノ巫女
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序;

激しい雨が森全体を襲う。
昨日から振り続いているせいで、地面がぬかるんで走る度に独特の感触が伝わる。

しかし雨と地面のに混じって不快な臭いもする。
「血だ…」
血というのは雨土では誤魔化しきれない臭いだ。自分達獣の嗅覚を不能にしてしまう。

臭いがする方へ走りながら、耐えきれず顔をしかめる。

「あぁ、だから嵐は嫌いなんだよぅ」
隣に並んで泣き言を言っているのは弟のアサギ。髪の色が浅葱(アサギ)色だからそう名付けられた。
兄の自分とは違って心優しく、可愛らしい自慢の弟だ。

--そんな事、恥ずかしくて言わないけど--

考えている事がばれないように平静を装った。
「仕方ないだろ。余所者は追い出す、それがしきたりなんだから」
当然の事実を口にすると頭では分かっているもののどこか納得出来ないのか、口を尖らせている。

「分かってるけど…」
そんな物騒な事言わなくてもいいじゃない、と心の呟きが聞こえそうだった。


それ以来しばらくお互い無言のまま、ひたすら走り続けた。


雨の音と、自分達の足音と、荒い息づかい。まるで響いているようだった。


どれくらい走ったのだろうか。
気が付いたら仲間が集まっている場所に辿り着いていた。

何かを取り囲み、しかし恐ろしいのか誰もその場を動こうとはしなかった。

とりあえず近くにいた仲間の一人に声をかけてみた。
「一体何があった」
するとそいつは苦虫でも噛み潰したような表情で口を開いた。
「上から鉄の塊が落ちてきて…潰れたんだ…」

自分が疑問に思ったのとほぼ同時だ。塊?、とアサギが横から人だかりを掻き分けるようにして前方を覗きこんだ。
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