Divine Wind


□Episode.1
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ぐるりと囲む
高いレンガ造りの塀が
特徴的な町、"Tran"。

その一角に
取り付けられた木製の
巨大な門がゴゴゴ…と開く。

開いた門を潜る下駄の音。
町中に敷かれた石畳に響いて
ひとつのメロディーのようになる。

腰に日本刀を差した
若者が何かを捜すように
辺りを見渡しながら歩く。


「…んぉ」


夜ということもあってか
店は閉まっており
外を歩く人もほとんどいない。

そんな町中で
若者はある場所で
その足を止めた。


「…まっくろだな」


若者の目の前にあるのは
元の姿がわからないほどに
焼け焦げた真っ黒な木炭で。

鎮火して間もないのか
まだ煙が燻っている。


「とりあえず…やど」


若者は夜を明かすために
町の宿屋を探し再び歩き出す。

先程の焼け跡の
隣に建つ宿屋に入り
宿帳に若者は自らの名前をサインする。


「何と読むのですか?」
「ん?これ?
 ヤナセ アオイってよむの」

「見たことがありませんでしたので
 失礼しました」
「んふ、ぜんぜんだいじょーぶ」

「ではお部屋の鍵を」
「ありがと」


受付の中年の男は
若者が部屋に向かったあと
宿帳に書かれた文字らしきものを
まじまじと見る。

"柳瀬 碧"と書かれているのだが
見慣れないその記号のようなものに
読み方などあるのかすらわからない。

だが若者が書いたのは
確かに自らの名前。


「どこの国の人なんだろうか…」


見たこともない言語を書き
見慣れない服装で
しかし話す言葉は
この世界の共通語で。


与えられた部屋の
ベッドに腰掛け
ほ、と息を付く彼の素性は
後程何処かで明らかになるだろう。


「ねよ」


アオイという若者は
ベッドに身体を沈め
夜明けまで
ささやかな休息を摂る。






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