Divine Wind


□Prologue
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が、化け猫が叩いたのは
ただの芝生の草で。
確かに直前まで
眠っていた若者の姿はない。


「ゥニャ?」


化け猫は
訳がわからないとでも
言うように、首を傾げる。


「せっかくきもちよく
 ねてたのに…」


溜め息混じりに
化け猫の背中を見つめるのは
さっきまで眠っていた若者。

化け猫も声に気付き振り返り
その毛を逆立て若者を威嚇する。

そして額に生えた角の尖端の
標的を若者へと合わせるように
頭を低く低く構える。


「かっちょいいな
 そのつの」


化け猫は一気に地面を蹴り
若者へと角を向け飛び掛かる。

そのはずだった。


「んーと?
 あっちいけばいーのかな」


カランと下駄を鳴らす音が
静かな闇夜に響く。

化け猫はといえば
若者が立ち去ったその丘で
息絶え風と共に亡骸は消えていく。

自分の命の終わりを
果たして知ることが出来たかは
定かではない。


ただ、手を下したのは
間違いなく若者である。

攻撃の素振りなど
一部も見えはしなかったのだが。



若者は上機嫌で
"Tran"の町を目指して
夜道を歩いていく。




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