小説部屋2

□とある思考の果てに
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ジョン視点

ジョンが自分のフラットに帰ると、そこに同居人の姿は無かった。大方事件の捜査に出かけているのだろう。これまでにもあった事なので、不満はあるがあまり気に留めない。
部屋に入ると、色々なものが散らかっていた。思わずため息が出る。仕事に出かける際に「退屈だ!」と喚くシャーロックへ片付けを頼んだが、やはり聞いていなかったらしい。
仕方なくジョンは片付けに取り掛かる事にした。
「コートが落ちてる・・・。」
床にシャーロックの愛用しているコートが落ちていた。珍しい事も
あるもんだと、手にとって眺めていると、ふとある考え(後から思うとバカな考えだが)が浮かんだ。
―――自分がこのコートだったら。
何を考えているんだと、慌てて頭を振ったが、一度浮かんだものは中々消えない。更に驚きなのは、
・・・ちょっと嬉しいかもしれない、などと思ったことに。
だって、シャーロックは本当にいつもこのコートを、捜査に出かけるときには着て行っている。・・・ジョンはたまに置いていかれるが。
思わず、「気持ち悪い・・・。」
とそんな事を考えた自分自身に向かって、呟いた。
その時、ジョンの後方から突然、聞きなれた声が飛んできた。
「何が気持ち悪いんだ。」
心臓が一回転した(感じがした)。シャーロックは物音立てずにジョンの目の前に来て、その目をのぞきこんで、また尋ねた。
「何が、気持ち悪いんだ。」
ジョンをのぞきこむシャーロックの目はとても澄んでいて、魅せられてしまう。薄々自覚していたが、ジョンはこの目で見られると正直言って、―――本当に弱い。
「・・・僕がこのコートだったら、ちょっと嬉しいかもしれないと思ってた。」
その答えにシャーロックは少し面食らった様な顔をして、背を向けた。そして、ジョンに言葉を残して、自室へ消えた。それは聞き取れない位の小さい声で、ジョンにはかろうじて聞こえたが、声量に合わず心に響いた。
「それは困るな。―――僕の大切な人がいなくなる。」
・・・ジョンの思考回路が停止したのは、言うまでもない話だ。
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