小説部屋2

□Do you remember・・・?
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 君はまたいなくなるのか、僕を置いて。




 ――――昔よりも、ひどいじゃないか。




 あれから1年経った。ここに来るのも久しぶりだな。
 シャーロック、僕はあのフラットを出たんだ。今はケンジントンで暮らしている。
ちゃんと医者としての仕事に励んでるよ。
 君が、・・・いなくなってから、僕は自分の足が、また動かせなくなるんじゃないかって思ってたけど、
杞憂だった。でもさ、せっかく治してもらったのに、また悪くしちゃったら意味ないもんな。
――――それに治してくれる君もいない。



 シャーロック、君はやっぱりひどい奴だな。本当に、ひどいよ。だから僕の、君にとってはたぶん
退屈な話を聞いてくれ。あ、これは頼んでるんじゃないぞ。強制的に、だ。
これからする話を聞いたらきっと、
 「ジョン、君は馬鹿だな!!」
って、いつものあの喰えない笑みを浮かべて、言うに決まっているから。



 君の「精神の宮殿(マインドパレス)」には、仕事に関する必要な知識しか無かった。
 だから覚えていないだろう?あの今よりも暗い霧の街ロンドン、懐かしいベイカー街の部屋で幾多の依頼を受け、
事件解決の為にイギリス中いや世界中を、一緒に駆けずり回った日々を。あれは確か、ヴィクトリア時代だった。
僕は、――――かすかに記憶があったんだ。度々夢に出てくる程にはね。
 でも、鮮明にその記憶が浮かんだのは、はっきりと思い出したのは、
皮肉な事にシャーロック、・・・君が、バーツの屋上から飛び降りた時だった。
きっとショックと、あの二度と経験したくなかった絶望が、記憶を呼び起させたんだ。


 シャーロック、なあシャーロック。君の言う通りだったよ。僕は正真正銘の馬鹿だった。
だから、僕の目の前で君は死んだのかな。あの時、君が死ぬ少し前、僕は君を置いて一人にしてしまった。
またモリアーティの罠にまんまと引っ掛かって、馬鹿な僕はベイカー街へ向かった。
――――きっと君は気付いていたんだろう?あの電話が罠だって。ベイカー街で僕を迎えたのは、元気なハドソンさんだった。その時やっと、過ちに気付いたんだ。
 タクシーでバーツに着いた時、間に合ったって思ったんだ。前は、・・・マイリンゲンからライヘンバッハの滝まで
走って走って、でも一時間以上もかかって、後には君のステッキと書き置きしかなかった。
だから、良かったって思ったんだ。まだ大丈夫、まだ君を救えるって。
 ――――でも駄目だった。君から電話がかかってきて、屋上の君を見た時、君の言葉を聞いた時、
全部全部、僕には信じられなかった。僕が止めろって言ったのに、君は止めなかったね。それどころか君は、
 「これはいわば、遺書だ。・・・残すものなんだろう?」
そう言って、勝手に別れを告げたんだ。



 勘弁してくれ、シャーロック!!そんなのが遺書だなんて、書き置きだなんて、僕は認めない。
だって君は、そんなこと言う奴じゃなかった。そんな震える声で、泣くような奴じゃなかった。
昔も今も、意地が悪くて変人で、「退屈だ!」って銃を壁に撃って、周りに迷惑をかけてばっかりで、
我がままで、尊大で、でもすごく賢くて、ちゃんと心もあって、世界一の名探偵が、
 「僕は偽物だ。」
なんて事、あるわけないじゃないか。




 だからお願いだ。今度こそ、例え何度生まれ変わっても忘れないから。君の言った事、君のやった事、
君と一緒に笑った事、君との大切な日々を全部覚えるから、だから、


 「頼む、シャーロック。僕の為に、もう一度、一度でいいから、
  
  




  





   ―――――――奇跡を、起こしてくれ・・・!!」

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