「神崎さん、そこはこうです」
「あ?もう近くで話しゃそれですむじゃねーか」
「神崎くん、それじゃここまで作った意味ないよ」


蓮井と連絡をとる為に教室を出ていた姫川が戻ると、俗に言う神崎組が騒がしいことに気づいた。


「あー、姫ちゃんおかえりー」
「…お前らなにやってんだ?」


姫川が騒ぎの中に顔を覗き入れると、夏目と神崎の手のひらに小学校の頃に一度くらいは作るであろう懐かしいオモチャがあった。


「糸電話…?」
「へぇ、姫ちゃん糸電話知ってるんだ、意外だねー」
「馬鹿にしてんのか?それくらい知ってるっつの」
「何!?」


夏目の人を小馬鹿にするような笑顔を鼻で笑って返せば、何故か神崎の焦るような声が聞こえ、姫川はコンマ数秒のタメの後にニヤリと笑った。


「知らなかったのか?」
「はぁ?し、知ってるっつーの!」
「じゃあ、何するもんかは流石に知ってるだろ?」
「当たり前だ!馬鹿にしてんじゃねーぞ、モサヌメ!」
「なら言ってみろよ。つかモサヌメつーな!」
「お、おーよ!」


姫川が加わり、更に騒がしくなったことで教室内の不良の視線を浴びる中、神崎は片方の紙コップを耳に、そして、もう片方を自身の口に当てた。


「こ、こちら神崎、そっちの様子はどうだ!?…!!!何ぃ、…至急応援を向かわせる!」


以前プレイしていたゲームを彷彿させる動きと言葉に全員が吹き出しそうになるのを必死で抑えていたが、抑えようともしない二人の笑いだけが教室に広がる。


「ブハッ!どこの通信司令部だっつの!」
「っくく…神崎くん、もぉ最高だよ」
「い、今まで無かった斬新な遊び方で素晴らしいです!」



姫川と夏目の笑いが間違いを指摘し、城山の精一杯のフォローが神崎を恥ずかしくさせた。


「………知らねーよ。こんなもん見たことねぇ」


ポツリと呟いてから、神崎は糸電話を机に置く。


「まぁ、神崎くんの家じゃ常に周りに人がいるし必要ないオモチャだったんだろうね」
「すいません!俺が懐かしいからって作ったのがいけなかったんです」
「…仕方ねぇな」





顔を俯かせた神崎を横目で見てから、姫川は神崎に糸電話の片側を耳に当てさせ、自身は紙コップを繋ぐ糸がピンと伸びるように少し離れた。




「聞こえるだろ?」
「!!!…聞こえる」
「返事するときは口に回せ」
「……聞こえる」
「了解」




不良なら誰もが道をあける二人が糸電話で会話をしてる光景になんとも言えない空気が流れるが、夏目が楽しそうに笑う声がその空気を薄くしていく。



用途の判った糸電話は、使えるようになった喜びからか年相応に笑う神崎を楽しませ、姫川は初めて見たヨーグルッチ以外のものにテンションを上げる神崎に目を見開いた。



「…神崎」
「おう、なんだ?」



音は振動で伝わる。


神崎にしか聞こえない姫川の声、姫川にしか聞こえない神崎の声。







「愛してんぜ」
「………………は?」







糸電話の赤い糸
(ッモサヌメ!ふざけんな!)
(顔真っ赤にしながら言っても可愛いだけだぞ)
(!?)





end



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