短編2
□本気を見せます
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――包帯でぐるぐる巻きのセトの左腕。カノは彼の右腕に、左腕と同じになるように包帯を巻いていく。
消毒液をぶっかけてやると、セトは微かに呻いた。
「もうちょっと優しくやってほしいっす」
「嫌だね。勝手に怪我した罰だ」
「…………」
「なんで、僕なんか庇ったの」
「…………友達っすから」
「友達?」
カノは包帯の両端を結びながら嘲笑を吐いた。その声には、どこか悲哀が滲んでいる。
俯いて、フードで顔を隠して、カノは口を開いた。
「僕は、君を友達と思ったことなんて一度もないよ」
「カノ…?」
堪らず、顔をあげてセトを見上げる。セトの瞳に写る自分の顔は情けないくらい赤い。
今ならまだ、誤魔化せる。冗談にできる。
けれど、口の動きは止まらない。
「僕はずっと、君のことが好きだったんだ」
セトの目が見開かれる。その口はわななき、――――
「――セトカノシリアスぷめええぇぇえっ」
「でしょうでしょう! このサイトさんのシリアスは超ぷまい! んですよ!」
「シリアス好きのオレには堪らん…」
「でもこのサイトさん、三ヶ月前から更新止まってるんですよね…」
「なん…だと…!?」
気に入ったサイトが更新ストップする、ということほど悲しい事態はそう無い。
拍手をして応援コメを送りたいが、オレにその勇気はない。
せめて拍手だけは…! とケータイに指を置く。少し指に力を込めれば、拍手は完了する。しかし力が入らない。ソファの上で何十分も逡巡。
「シーンタロー君!」
どっ、と背中にのしかかるぬくもり。その勢いに、つい指に力を込めてしまう。拍手、できた。
体に巻きついた腕を無言で外す。立ち上がって後ろを向いて、のしかかっていたカノを見下ろす。
「シンタロー君、今日もかわいいね! 大好きだよ!」
「カノ……ありがとう、オレも大好き!」
拍手押させてくれてありがとう。拍手押させてくれたから大好きだ。
カノは口元を手で覆って、もう片方の手を握ってた。拳がブルブル震えている。
ばんっ、と元気に、リビングのドアが開いた。
「ただいまっす! シンタローさんいらっしゃい! おみやげあるっすよー!」
息を切らせて入って来たセトが、白い箱をかかげる。
「なんと! コージーコーナーの冬季限定フルーツショートケーキ!」
「フルーツショートケーキ…!」
あの、開店の最低でも五時間前に並ばないと買えない大人気ケーキではないか。予約もできない、客泣かせで有名な。
それをまさか、オレにくれるだなんて。
「ありがとうセト…!」
「これあげるんで、愛してるって言ってください」
「愛してるセト!」
カノがセトの頭をひっぱたく。
「なに物でつってんの!」
「あー! 嫉妬っすねカノ!」
「そうだよ悪い!?」
オレは喧嘩する二人から――セトからケーキの箱を受け取り、台所から持ってきたフォークで食べる。
少し行儀が悪いが、ケータイを持って画面を見ながら食べる。
「見ろよエネ、リアルカノシンだ…! カノがオレに嫉妬してる!」
「いやぁ、これはカノシンセトですよ。猫目さんはセトさんに嫉妬してるんです」
「え?」
首を傾げるとエネは盛大に溜め息をついた。
あ、カノシンセトだったのか。それはそれで美味しいなぁ。
* * *
「第八百一回・シンタロー君を落とそう作戦会議〜っ!」
「どんどんぱふぱふーっ」
リビングで、僕とセトは二人きりでいた。シンタロー君とエネちゃんが見たら大興奮しそうだ。
二人で盛り上がってみて、むなしくなってテンションを下げる。
僕はソファに、セトは床に座る。
切り出したのは、セトだ。
「俺昨日、シンタローさんと両思いになったっす」
「奇遇だねセト。僕もだよ」
「はあぁ? シンタローさんの彼氏は俺っす! 愛してるって言ってもらったし!」
「言わせたんでしょ!? 僕なんか、大好きって言われたよ!」
「どうせカノの行動がシンタローさんにとってプラスに働いたから、勢いで言っただけっすよ!」
痛いところを突かれた。昨日の「大好き!」は、僕のお陰で拍手押せたから勢いで、って感じ丸出しだった。
でも、僕の言ったことだってセトの痛いところを突いてる。
「三日前、シンタローさん俺にキスしてくれたっす!」
「頼んだんでしょ」
「そうっすけど、ほっぺ赤くしてたっす!」
「はんっ。僕なんかシンタロー君の乳首摘まんだもんね! シンタロー君、真っ赤になってかわいい声出してたよ!」
「変態いいい!」
しばらくの間ヒートアップして言い合って、でも気付く。やばい。会議できてない。
セトが大人しくなったところを見ると、あっちもそれに気付いたらしい。
僕はソファに、セトは床に座ってクールダウン。
「いっそのこと襲えばいいと思うんだ」
「完全に拒否られたらどうするんすか」
「でもさ、僕もセトも脈ありっぽくない? この際三人で付き合っちゃおうよ。僕はセトなんかと乳繰りあわないけど」
「こっちだってカノとそんなのするのはごめんっす。……脈ありっていうのも、本当かよく分かんないっす」
「え?」
それはない。シンタロー君も、好きでもない奴にあんなこんなをされて許す程、心が広い訳じゃない。
けれどセトは真面目に言う。
「シンタローさん、俺やカノからの愛情表現、絶対ネタにしてるっす。セトシンとカノシンの」
「…………」
「あの人、自分のこともカップリングに含めて愛でてるっすよ」
あり得る。
僕との絡みをカノシン、セトとの絡みをセトシンの二次創作として、客観的に見て楽しんでそうだ。
「……どうしようセト。すっごくムカついてきた」
「奇遇っすね。俺もっす」
真剣に大真面目に冗談抜きに、話し合って語り合う。
今回の会議は過去最長の長さだった。
* * *
「お邪魔しまーす……何してんだ」
「何って。シンタロー君とお楽しみする準備」
「今日はマリーもキドもキサラギちゃんとお出かけで、夜まで帰って来ないっす」
「は?」
「だからねシンタロー君。キド達が帰ってくるまでに、君を落としてみせるからね」
「俺達どっちかを選ぶのに悩む必要はないっすよ! 両方選んで結構っす」
「え? あ? …え? ――うわあぁっ?」
「カノシンセトキタコレ!」
「興奮してないで助けろエネ!」
結果どうなったかというと。
第八百二回・シンタロー君を落とそう作戦会議は開かれなかった、とだけ言っておこう。
END.
* * *
コージーコーナー冬季限定フルーツショートケーキもフィクションです。実際あったらいいのに。
ちょっとグダってます。ちょっとギャグっぽいような。
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